毎年のことなのだが、師走も終盤に差しかかる時期になると、「何もしないで寝ていても、正月は来るんだよなぁ」という気分に襲われる。明らかな現実逃避願望。理由ははっきりしている。営業の仕事に走り回りたくないのだ。この時期、新年特集号に掲載する広告営業で、担当社員だけでなく、記者も、内勤の総務や編集の社員も駆り出される。当然、筆者も。

 知っている人は「ウソ言え」と笑うかもしれないが、生来の憶病者。知遇を得ていない、初対面の方と意思疎通を図るのが大の苦手。電話という文明の利器など、この世から消えてなくなれ、などと本気で願う人間なのだ。だから、まともな営業なぞ、出来るはずもない、いや、本当に。が、仕事だ。誰に強制されるわけでもなく、やらなければならない。もちろん、社員の手前もあるし、意地もある…。

 そんな日々が三週間も続くと、夜、体は疲れているはずなのに、なぜか目が冴えて眠れなくなる。寝るのが趣味の一つなのに、である。「寝ていても、正月は…」の気分になるのは、そんな夜更けだ。

 ところが、苦手だ、向いてない、嫌い、と思いながらも仕事を続けていると、フッと、気持ちが楽になる瞬間が来る。気持ちが「カチッ」と音を立てたように切り代わり、それまで後ろを向いていた思考のベクトルが、前に前に向いて行くのを実感するのだ。この、いわば劇的な変換点をかつて、若かりし頃、つまり四十年も昔、味わった覚えがある。陸上競技に打ち込んでいた頃、辛いダッシュを三十本も続けていると、フッと、その激しい辛さが消えて、足や手の筋肉や、内蔵の奥までが、楽々と浮いて動きを始め、走っていることまで忘れてしまいそうな気分になれる瞬間が来る。いつもいつもではないのだけれど…。

 あぁそうか、あの頃の苦しい練習にはそういう意味もあったのかと、四十年後の今さらながら思いながら、雪道をあくせく走り回る日々である。枕は、ここまでにして。

 そうして営業に歩いていると、このご時勢、景気の良い話には中々行き合わないのだけれど、不景気なぞどこ吹く風、という企業もある。今日伺った食肉関係の会社もその一つ。先日おじゃまして出稿の了解をいただき、今回は版下を確認していただくために訪問した。創業者である、七十歳を過ぎたオーナーが、自ら包丁を手に、白い作業服でエプロンの前を肉の血で赤くして社員と一緒に仕事をしていた。食肉卸としては、国内有数の企業のトップが、である。その会社に電話をした折も、おじゃました時の社員の対応も、まことに礼儀正しく、爽やかなのだ。現場に立ち続けるオーナーの姿勢が、黙っていても社員に投影されるということだろう。

 同じような例をもう一つ。こちらもその分野では日本有数の企業のオーナー。お話をうかがっていると、必ず「経営者はサメなんですよ。動きを止めたら死が待っている。寝ている時も、ゴルフをしている時も、酒を飲んでいたって、仕事のことが頭のどこかにあって、そのことで脳が動いている。止まったら企業は死ぬんだから」という意味の言葉を口にする。

 この方も、現場主義。工場を見学させていただいたことがあるのだが、私を案内しながら、働いている女性労働者を相手に、製品の出来具合を話し合ったりする。いつも、そうしている風なのだ。「うちの財産は、ワーカーですから」も口癖。儲けが出たら、出荷する製品の価格を下げて卸や小売店に利益を分配し、シェア拡大につなげる、それが一貫した営業戦略だと言う。

 お二人の経営者の姿を見て、思う。もちろん、時代の趨勢もあるだろう。が、泣き付けば、国が景気浮揚対策を名目に、公共事業という“打出の小槌”を下賜してくれる時代は、遠い過去の話。「景気が悪い」と嘆いていても誰も助けてはくれないのだ。この地に腰を据え、地元から、それ以外からも、仕入れて、加工して、本州や海外に売り込む。その利益は、この地に還元する。そうすれば、旭川地域の景気は間違いなく良くなる。ヒントは山ほどあるではないか。成功している経営者が、このまちに数多いるのだから。

 あと一週間で、〇八年、新しい年が始まる。読者の皆様にとって、良い年になりますように。こちらは、新年特集号の準備で大わらわの中、社員の年末手当の算段に頭をひねっておりまする。一年間のご愛読に感謝しつつ――。

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