今年七月に開かれる洞爺湖サミットに参加する先進国首脳の夫人たちが、旭山動物園にやって来るかもしれない。まだ案の段階らしいが、市に打診があったという。なにせサミット、世界の頂点にいる方の夫人たちである。些細なアクシデントもあってはならないと、前日の閉園後に警察官らが安全を確認し、翌朝、一般入場者が入園する前に観てもらう、という段取りで話が進んでいるらしい。

たった八つの国の為政者が顔を合わせて世界のことを論じようなどと、何を傲慢なと、へそ曲がりの私は斜に構えたくなる。が、別の見方をすれば、その先進八カ国から報道陣が北海道に、短時間ではあろうが旭川にも集まるのだから、それをうまく利用しちゃう、という手はある。

今サミットの主要テーマは「環境」だという。本紙一月二十二日付に「旭山動物園がずーっと愛されるために 環境保全が観光客誘致につながる」の見出しで、園内のトイレについての記事がある。軽くおさらいすると――

今春から、西門に新たに設置された水洗トイレの使用が始まる。平成十七年度から三カ年かけて、工業団地から下水道管を延長する工事を行い、昨年末に完成した。総工費は園内のトイレ設置工費も含めて二億八千万円。厳しい財政状況下にある市が、なぜ大きな投資に踏み切ったのか。ある市の職員は「現在、下水道はほぼ全市を網羅している。市内の水道業者や水道局が、新たな仕事を動物園までの下水道管の延長に求めたのだろう」と語った。

記事には、同園に七年間にわたってバイオトイレを設置している正和電工の橘井社長が「一業者の利害関係で言っているのではない」と前置きしてコメントしている。

「今、観光は環境保全を抜きには考えられない。水洗トイレは設置費も高く、維持管理に莫大な金がかかる。旭川は豊かな自然に囲まれた『川のまち』として全国に発信している。その象徴として旭山動物園がある。そこに環境を汚さないトイレがあることは、全国の動物園にはないオンリーワンの特長を持っていた。入園者からはバイオトイレに関する苦情はほとんどなかった。それを何故、汚水を川に流し環境を汚す水洗トイレを高い工事費をかけて設置するのか、その理由を市に求めても納得のいく回答を示してもらうことはできなかった」

バイオトイレで使うのは、オガクズだけ。微生物が糞尿を分解処理し、そのオガクズは数カ月に一度取り替えるだけ。さらに、使い終えたオガクズは、有機肥料として利用できる。もちろん、汚水の排出はゼロだ。全国的に登山客の“糞公害”に悩む山小屋などへの設置が増え、今後はインフラが整備されていない途上国での活躍が期待されている。いわば、世界へ発信できる数少ない旭川の名産になりつつある商品である。昨年十一月、「ニューズウィーク日本版」が特集した「世界が注目する日本の中小企業一〇〇社」に名を連ねていることからも、その秘めた可能性が分かろうというものだ。

水の問題は、地球規模で危機的な様相を呈していると報じられている。サミット参加国の首脳夫人たちも、当然「環境」に強い関心を抱いていると考えていい。旭山のあざらし館も、ほっきょくぐま館も、彼女たちを喜ばせるだろうが、もしかして最も興味を示すのは、バイオトイレかもしれない。橘井社長が言うように、園内に水洗トイレがない状態を見てもらいたかったが、今となっては致し方ない。「水洗とバイオと、お好きな方をどうぞ」と案内してみればいい。「環境」をテーマに集まったお歴々夫人が、どんな反応を示すか、試してみるのも面白いではないか。

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