朝、犬と石狩川の堤防を散歩の途中、ハクチョウの群れを見た。百羽以上の編隊が、大きな矢印のような形をつくり、残雪の堅雪と芽吹き直前の河畔林の上空を北に向かう。「カウゥー カウゥー」と鳴き交わす声が、耳をピンと立てる犬と口をポカンと開けて惚けたように見上げる僕の頭の上を通り過ぎ、見る見る遠ざかっていった。あぁ、春が来たんだぁ。

雪が消えて困ること。冷蔵庫に入れておくのを忘れたビールを、あわててベランダの雪の中に突っ込んで、瞬時に冷やすことが叶わなくなった。あぁ、雪よ恋し、ハハハ。

家具メーカーの経営者の話を聞く機会があった。米国や欧州、韓国に輸出している会社だから、この急激な円高・ドル安でかなりの負の影響を被っているだろうと予測していた。だが、「対米輸出は考え直す必要があるかも知れないが」と言いつつ、ヨーロッパへはユーロ建て、韓国へは円建てだし、輸入の方が多いから、このドル安で実質はプラスじゃないかな、とのことだった。

四方山話になった。「いま世界で起こっている現象は、西欧を中心に回ってきた世界が、中国を始めとする東洋に覇権が移る、その節目、過渡期なんだと思う。二〇世紀は米国が牽引して来たのは間違いない。実態を伴わない金融工学によるマネーゲームが世界に蔓延し、そして破綻した。米国のリーダーシップのほころびは明らかで、中国が台頭して来るのは自然の流れじゃないかな。インドも含めて、アジアの人口は西欧の比じゃない。世界の経済の中心は、すでに東洋に移っていると見ていいと思う」

景気の話。「二〇〇三年が底で、東京は景気が良かった。ミニバブルの様相。オフィスの需要が高まり、マンションも次々に建った。その結果、不動産の値段は上昇した。いま、そのミニバブルが終わり、景気は下降しつつあると思う。日本の景気は、良くなるときも悪くなる時も、東京から。景気に一番敏感なのは消費者です。東京の百貨店の売上げを見ると、日本の景気は後退期に入ったと見ていいんじゃないか」

で、旭川の景気の話。「公共事業で成り立って来たこのまちの経済が、今後、同じ形で立ち直るという期待はできない。ただ、私たち製造業を考えると、この地域の景気が悪くなることで、全体のコストが下がるという現実がある。土地の値段が下がる、人件費も安く抑えられる、加えて、通勤時間は短い、自然環境に恵まれている。デメリットを言えば、製品を出荷する、あるいは仕入れる材料の運賃が高い、それくらい。このまちに本拠を構えるメリットはある。製造業界はモノを安く作るから中国を恐れる。それならば、旭川で、クオリティの高いモノを安く作るビジネスモデルを構築すればいいわけだ。その可能性は充分にあるし、すでに動き始めています」。

話は、旭川経済の行方に。「切り口の一つは、農業でしょう」ときっぱりと言う。「荒廃している農地を復活させる取り組みをすぐにでも始めるべきです」と。

先週、土壌の専門家の話を聞いた。農産物をつくるプロでもある。中国産の冷凍餃子事件を契機に、日本人が少し、自分たちの「食」について見直し始めたという話題を触媒に、「ヒステリックな安全・安心志向の風潮が、結果的に食品添加物の増加を招く」「白い恋人事件の顛末は、消費者をますます無防備にしたのではないか」「ファストフードが出現してから、人間を取り巻く生態系が狂い始めている」など、あれやこれや。

そして結論は、「四、五年のうちに、間違いなく食料危機がやって来る。その事態に備えて、賞味期限が切れた食品が、その後、どれだけの期間食べても大丈夫なのか、訓練をしておかなければならない」。つまり、製造者あるいは提供者が記した「○月○日まで」の期限を鵜呑みにするのではなく、自分の舌と経験と勘で判断できる能力を養っておけ、ということだった。

その席で、農業者からは「肥料に使うリン鉱石が枯渇し、世界中で取り合いになっている。その外の肥料も急騰する情勢にある。畜産の飼料も同じ。食料危機の到来は現実的な問題だ」との発言もあった。

海外にも進出している家具メーカーの経営者の発想と、土の専門家や農業者の具体論が一致する。そこに、このまちの将来の姿が見える気がする。議員の口利き、紐付きで、総花的に予算を配分し、その予算を一律二〇%削減する、そんな右肩上がりの前時代的な予算編成はやめにしよう。もっと大胆に、まちの施策として、農業を柱に据えた施策にお金を注ぎ込むべきではないか。

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