旭川市は五月二十二日に一日だけ開会した臨時市議会に、高齢者が受け取る年金から住民税を「天引き」する特別徴収の条例改正を提案、可決された。国の地方財政法の成立に従ったものだが、実際に天引きが実施されるのは一年半も先の来年十月から。「なぜ、市民の声も聞かず、議会での議論さえ経ずに、それほど急ぐ必要があったのか」という非難の声があがっている。

市幹部の一人は言う。「小泉政権時代に国が決めたことだから、地方自治体の判断でどうこうできる問題ではないのだろうが、それにしても、どうして『今』なのか、さっぱり分からない。来年の秋にスタートする話なんだから。市長本人に、こうした政策決定は市長の政治判断とも言える大事な問題だという認識があったのかどうか。庁議にかけられた訳でもないし、多分、市長と、副市長と担当部署の部長あたりの話で決めたのだろうが、全道のトップを切って(三十四市の中の七市)やる意味が、全く理解できないね」。

話の中にある「庁議」とは、月に一度開かれる市役所内の幹部会議を指す。部長職以上の職員や特別職が集まる、言わば市役所の意思決定機関とも言える会議。副市長ら特別職や部長と名の付く職員に加え、選挙管理委員会、消防、市立病院、農業委員会などの事務局長も対象だから総勢二十五、六人になる。

今月は六月六日金曜日、午前十時から議会棟第二委員会室で開かれた。議題は「平成二十年第二回定例会に係る補正予算並びに継続費、及び繰越明許に係る繰越額について」。「その他」として、「平成二十年度第二回定例会の日程について」「洞爺湖サミットに係る各施設の安全管理について」「昼の休憩時間に係る職員意識調査について」「災害時要援護者の避難支援に係る取組について」の四項目が並んでいる。

いずれの議題についても、「資料あり、当日配付」。参加する職員は、会議の場に出て初めて、その日審議する議題を知らされ、その参考資料に目を通す。

先の幹部は言う。「庁議は議論の場にはなり得ませんね。報告会です」と。「年金からの住民税の天引きという、西川市長にとっては、相当の政治的な意味を持つであろう問題についても、この庁議のまな板に上がることはありませんでした。私は、全庁レベルの問題なのだから、幹部職員の間にコンセンサスを取るという意味でも、または責任ある立場の職員たちの共同責任という意識を持つ意味でも、庁議という場で“もむ”という過程が必要だったと思いますが…」。

六日の庁議は、一時間足らずで終わったという。「三十分で終わることもあるし、まぁ、最大でも二時間。今回も十時のスタートですから、二時間以上は想定していないということです。もっとも、議長が、あさひかわ新聞が書いていた『焼き鳥屋人事』の張本人の副市長ですから、中身の濃い、真剣な議論ができるなんて誰も考えてもいません。真面目に意見を言えば、得意のオチャラケではぐらかされるのが目に見えてますから」と嘆息しつつ苦笑いだ。

庁議の活性化が市役所改革の大きなカギを握ると考えている市議会議員もいる。

「民間企業で言えば役員会か、経営戦略会議。取り組んだプロジェクトの結果を総括し、時を待たずに新たな手を打つために、あるいは企業全体の方向性を決めるために、情報を共有し、意見を戦わせる場です。大企業は別でしょうが、旭川の中小企業の経営者たちは、そうした社内の会議がどうしたら活発になるか、現場の責任者が意見を言える場をどうやって作るか、日々頭を悩ませていると言っても過言ではないでしょう。その市役所組織三千百人を動かす戦略会議が、おざなりの報告会に成り下がっている。菅原市政の末期には三十分で終わることも間々あったと聞きました。若い西川市長に代わって、この庁議がどのように変わるか注目していましたが…。直属の配下の顔ぶれが同じなんだから、期待する方が無理ですよね」。

庁議のメンバーでもある別の幹部職員の話。

「編集長も書いておられましたが、この四月の異動で、“焼き鳥屋人事”の副市長は辞めさせられると、役所の心有る人間は誰しも思っていました。それが、まさかの留任です。識見、指導力、公正さ、部下に対する責任感…、何一つ持たない人の下で仕事をする切なさ。四十歳以上の職員はほとんど知っています。市長が、彼を切れないのは、何か弱みでも握られているんじゃないか、そんな憶測さえ職員の間で飛び交いました。市役所を変えたい、もっと市民の目線に立った仕事をしたい、硬直した組織を改革したい、と考えている職員は、実はたくさんいるんです。それを市長はご存じなのかどうか…」。

今秋十月、就任から二年、任期の折り返し点を迎える。経験もないが、その分しがらみがない、三十代の若き市長に期待した市職員の嘆き節が聞こえる。「お願いだから、能力本位の人事をしていただけないものか」――。

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