つくづく、農業者にはなれないなぁと思う。弊社の駐車場で毎週火曜日午後四時半から、東鷹栖の農家の母さんたちが「夕市」を開いている。自家用に作る野菜を少し多めに栽培し、それを売って自分たちのお小遣いにしようという、小さな野菜市。六月は、春先の低温の影響で種類も量も少なめだったが、今月に入ってからは、トウキビ、キャベツ、インゲン、長ネギ…、採り立ての野菜が豊富に並ぶようになった。隣の病院の看護師さんや近所の主婦・主夫ら、常連さんも出来つつある。

 母さんたちはプロだし、なんていってもキュウリの頭の蔓の切り口から滴が垂れそうなほど新鮮、ピカピカ。で、そのキュウリが四本で百円、なんて値札を見ると、あぁオレのキュウリは、この値段じゃ絶対に売れないなぁ、とため息が出るのだ。

 去年の秋、収穫を終えた畑を片付けて耕し、馬と鶏の堆肥を入れて、また耕し、雪解けを待ちきれずに融雪を促す籾殻の墨を撒く。なぜるように何度も畑起しを繰り返し、ちょっと高価な有機肥料をすき込んで、苗を植え、種を蒔き、低温の予報に恐怖してビニールを被せる。この季節だけは朝寝坊を返上して五時半には起床し、雑草取りに水やり、追肥。そして日々の様子に「お前は、元気がないねぇ」などと声をかける。

 そうした過程を経て、ようやく収穫に漕ぎ着けた、例えばキュウリが、多少曲がっていようが、体型不良だろうが、一本三十円や五十円、いやいや千円でだって売れませぬ。売るくらいなら、タダで差し上げて召し上がっていただいた方が、よほどキュウリと一体感を持ってしまった制作者としては、気が休まる気分。

 察するに、農業という職業にある方たちは、育てている段階では、趣味の次元の者と程度の差こそあれ、文字通り“丹精込めて”いらっしゃるであろう。それをお金に換える瞬間に、頭や心のどこかでカチッっとスイッチを切り替えるのだと思う。それがプロなのだ、きっと。

 口蹄疫の災禍に遭われた宮崎県の畜産農家の方たちが殺処分される牛や豚に対して持つ感情も、「病気が原因で処分されなくたって、どうせ最後は殺して食っちゃうんじゃないか」との傍観者の悪態とは無縁の、「お前達のお陰で生きさせてもらっている」というプロだけが獲得できる精神領域があるのだ。だから、商品になる前に処分せざるを得なくなった牛や豚に涙する。お金にならないから泣くのでは決してなく。畑の曲がったキュウリを眺めつつ、そんなことを思う今日この頃でありまする。枕はここまで。

 今月三日に開かれた「忠別川自然観察会」に参加した。旭川市の都市建築部駅周辺開発課の主催。宮前の「おぴった」に集まり、北彩都計画で開発が進み、大規模な公園が整備されつつある忠別川右岸の植物を観察しようという集いである。講師は、旭川帰化植物研究会の塩田惇代表。植物が好きな市民約三十人が参加した。

 科学館の裏の小道を抜けて、完成すれば五十四ヘクタールという広大な面積になる公園の散策路をゆっくりとたどりながら、道端に見つけた植物を塩田代表が解説する。起伏のある公園の丘を越えて、忠別川の流れが見えたあたりで、参加者の一人の男性が「あぁ、全部切っちゃったんだぁ」と声をあげた。今春までは残っていたはずの河畔林が、きれいに伐採され、直径十五~二十センチの樹木が、申し訳程度にポツンポツンと残されている。声をあげた男性は、「この緑は、“旭川の宝”だっていってたはずなのに。木を残しながら工事するのは大変だからだろう。きれいに切ってしまった方が、工事しやすいという理由だろうけど…」と茫然とした表情だった。

 その後、整備された散策路の草花の観察を続けながら進み、野鳥の飛来も期待されるという広さ一・八ヘクタールの「大池」予定地を見てから、JR富良野線の鉄橋に近い土手の上に登って、建設が進む新しい駅舎を眺めた。そこにも、かつて豊かに繁茂していた河畔林はなく、大きな木だけがポツンポツンと立っているのが遠望された。

 この駅裏の忠別川の河畔に残されていた樹林帯は、「自然豊かな河川空間を間近に望むことが出来る、国内でも稀な駅舎」を造り上げるための核の一つではなかったか。市は繰り返し「駅の傍で豊かな自然や景色を楽しめ…」「自然豊かな川の風景や眺望を楽しめる…」と説明してきたはずだ。現在の姿は、わずかに残された広葉樹と移植された幼木、あとは人工的な芝生の緑とコンクリートの構造物、そしてきれいな散策路…。

 市民が市の説明からイメージしていた駅裏の整備は、こんな都市公園然とした空間ではなかったはずだ。子どもたちが虫取り網を手に、冒険心を抱いて分け入るような、もともと整備される前の駅裏の状態を出来る限り保った、作りモノではない本物の自然が三十六万都市の駅のすぐ裏にある、生命の循環を主張する旭山動物園を持つまち・旭川らしい、いわば「ビオトープ公園」ではなかったか。紙数が足りなくなった。続きは、次号に書くことにする。

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