「汗腺の数は、生後三年の間に決まる。暑い土地で生まれ育ったヒトの汗腺は、寒い土地のそれよりも多い。暑さに対応できる身体になっているから、夏に強い」という話を聞いたことがある。「ヒトはサルより毛が三本多い」という戯れ言レベルの話かも知れないが、私は、日本最北のまちで生まれ、小学校まで過ごした。だから、暑さに弱いのかも知れぬと思ったりする。今夏は特に。もともと、それほどでもない思考力が、一層低下している。今週は、枕をふる余裕がない。即、本論ということで。

 読者から電話をいただいた。前週、前々週の小欄、JRの新駅舎から眺望できるはずの忠別川の河畔林が皆伐状態で緑がなくなったという一文を読み、工事中の現場に行ってみたのだそうだ。

 「あなたは、筆鋒を抑えて書いておられたようだが、私は現場に行ってみて驚愕すると同時に、怒りに似た感情を抑えられなかった。あなたも書かれていたが、新しい旭川駅のキャッチフレーズは、忠別川の流れと、その豊かな河畔林を間近に眺望できる、日本国内でも稀な駅舎、というものではなかったか」

 「市の担当者の言葉として『良質な河畔林を創出する』と載っていた。つまり、これまであった樹木を全部切ってしまって、新たに創り出す、という意味なのだろう。北彩都の事業が始まった頃からの新聞などの記事から、私は、以前からある緑を活かすのだろうと受け取っていたが、何だか騙されていた気がする」

 この方は、北彩都に行かれた際、造成中の宮前公園で、大きな遊具を見かけられたのだそうだ。担当する市土木部公園みどり課の説明では、周辺の道路がまだ未整備で、オープンするのは平成二十三年以降になるというその遊具は、巨大なS字になっていて、長さ約四十メートル、波のようにうねっている形状の、最も高い場所は二・二メートル。「プレイウォール(遊ぶ壁)」と名付けられた山並みのような不思議な形の遊具は、子どもたちが鬼ごっこをしたり、壁登り競争をしたり、そして自分たちで新しい遊びを作りだしたりも出来そうだ。地元の鉄工所が製作したという。

 その方が指摘されたのは、その遊具の近くに立てられている「注意書き」の看板。「この遊具は6歳から12歳用です」とあり、「10の約束」として、「とびおりない」「うえからものをなげない」「ゆうぐにひもをまきつけない」「うわぎのまえをあけっぱなしにしない」「ひもつきてぶくろをしない」など、禁止の言葉が書かれている。筆者も現地に行って確認した。可愛いイラスト入りの、真っ赤な目立つ立て看板である。

 電話の主は言う。この注意書きは、明らかに何か事故があった場合、遊具の設置者である市の責任を回避するためのアリバイ作りでしょう。十の約束の中には、「こわれたゆうぐであそばない」というのもあって、笑ってしまった。世の中、モンスターペアレンツに代表される、責任転嫁、自己中心、何でも裁判の風潮だ。行政は、その風潮に抗することなく、従順に、自己防衛策として、遊ぶ側にとっては当たり前の心得を、改めて「注意書き」として掲示する。事故があったときに、「私たちは、注意喚起のための看板を設置していましたよ」と言い訳ができるようにね。

 市土木部公園みどり課に取材すると、この看板のデザインは、全国の遊具メーカーでつくる団体がポスターなどに使っているものをそのまま看板にしたのだという。ははぁ、そうか、だから、この「10の約束」を見たときに、行政が発する、いささか上から目線のニュアンスを感じさせる単刀直入的メッセージとは違う、表面上は柔らか、低姿勢、揉み手の雰囲気ながら、したたかなリスク回避の意図を感じたんだ。「こわれたゆうぐであそばない」なんて、その典型だろう。好意的に受け取れば、民間企業が蓄積している知恵。

 思う。せっかくの施設を活用してもらうために、もっと市井の“その道のプロ”に意見やアイデアを求めたらいい。そして、市民が利用する施設に配置するヒトも、例えば、この大型遊具がある公園には、退職校長やら市OBではなく、子どもと一緒に遊ぶ若者をスタッフとして常駐させるような施策は考えられないものだろうか。

 西川市長は「市民との協働」を掲げているが、その具体的なプロセスは職員に丸投げの状態だ。各部、各課、各係で、その担当者の能力や情熱や情報に頼って、バラバラに協働を試みているに過ぎないと言っていい。ポーズを取っているだけの部署もあるし、協働なんてハナから意識にない職員もいる。今秋には、市長選挙がある。可もなく、不可もなかった四年間、このまちをどんなまちにするのか、しっかりと方向性を指し示しながら、私たち市民にとって具体性を持つメッセージがほしい。

ご意見・ご感想お待ちしております。