昨年最後の本欄に、二十九日に弊社の倉庫で餅つきをする、四臼つく予定だ、と書いた。読んだ読者が私が不在中にわざわざ来社し、「苦餅と言われて 忌避される二十九日に、しかも四臼つくとは何事か。せめて五臼にしなさい」と、餅米を十㌔届けてくださった。お会いできていれば、「地方によっては二十九 日の餅つきは福餅と言ったりしますし、四はしあわせに通じるのでは…」などと強弁して固辞したのだが、そこは恐縮しつつ有り難く頂戴し、当日、社員も含め て参加してくれた約三十人の方々の力を借り、ご助言に従って五臼ついた。つきたてを納豆、きなこで味わい、残りは雑煮用に丸めて持ち帰ってもらった。

 去る年は、弊社の業績としては過去最低だった。活字離れ、新聞というメディア自体の衰退の流れ、消費者心理の冷え込み、そして東日本大震災の影 響…、その要因は様々考えられる。が、しかし、最大の理由はあくまで経営者の力量の問題である。元来微々たる額の社員の年末手当も、過去最低の水準で勘弁 してもらった。ギリギリの陣容で仕事をさせられている社員たちにしてみれば、仕事納めの二十九日、ペラペラであったとしても賞与袋を、早く家に持って帰り たい心境だったかも知れない。チームの指揮を取る立場にある者として、少々後ろめたい気分を抱いての餅つきだった。

 社の行事としての暮れの餅つきは三年目。毎回感じるのだが、会場の倉庫の天井の隅あたりに、名も姿も定かではないのだが、異界の方の気配がある。 私は日常、神も仏も信じてはいない者なのだが、この餅つきの時だけ、かなり明確にその異界の方が餅つきを眺めている、と分かる。断っておくが、普段、霊感 のようなものは皆無である。

 業績はいささか不本意ではあったが、とにかく一年、読者をはじめ多くの方々に支えられながら新聞を発行し続けられた。そして、社員一同、元気に新 しい年を迎えられそうだ。また一年がんばって仕事をして、暮れにペッタンペッタン餅をつこう、みんなに集まってもらおう、そんな師走、二十九日の餅つきで ありました。枕はここまで。

(工藤 稔)

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