前週まで五回連載した「夢民村の挑戦」を読んだ読者から電話をいただいた。最終回の島秀久社長へのインタビューの中に、TPP(環太平洋パートナーシップ)に関する話があった。彼は次のような話をしてくれた。

 「私は、農家や農業団体がTPPに反対するのは、自己防衛のためだと感じ、日本の経済全体を考えるならば、TPPに参加した方が良いのではないかと思っていた。ところが、島さんの話によれば、TPPに参加することによって不利益を蒙るのは、農家ではなく、むしろ消費者なのではないか、ということです。まさに目から鱗の話でした」。

 「自動車とか電機製品とかのメーカーが、TPPに参加しなければ国際間競争に負ける、工場が中国や韓国に出て行って雇用の場が減る、日本経済がダメになってしまう、などと強く参加を求めていると報道されると、まるで自分が大企業の側にいる人間であるかのように錯覚し、『日本の国のためにTPPに加わらなければならない』みたいに思ってしまう。でも、考えてみれば、大手の新聞もテレビも大企業なんだから、大企業の味方をするのは当然です。私のような、しがない生活者が、何も大企業やお国のために、食のリスクを背負い込む必要なんて、どこにもありませんよね」。

 連載を読んでいない方のために、彼が言う「島さんの話」をおさらいすると――

 日本の食は、安全という面で世界レベル。農業者は厳しい規制の中で生産している。だから、TPPに参加すれば、農薬の基準は大幅に緩和され、農家は逆に楽になる。遺伝子組み換え作物も、BSE対策も、日本が独自に定めている安全基準は、TPPのルールによって撤廃される。アメリカの狙いは関税ではなく、それだろう。リスクを負うのは農家ではなく、消費者の方じゃないか。ニューヨークのスーパーマーケットの売り場を覗いたら、食品の産地表示は一切なかった。TPPに参加したら、日本もそうさせられるだろう。

(工藤 稔)

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