「中国もインドも、どんどん原発を造るんだよね。日本が脱原発とか、卒原発とか言っていたら、負けてしまうじゃない」と真面目な顔をして言う。話の主は、立派な業績を上げている地元企業の経営者である。

 この手のもっともらしい言い回しは、大企業が名前を並べる経済団体の幹部らが得意だ。グローバル経済の恩恵を蒙っているであろう大企業は、日本の国土が放射能で汚染されても別に構わない、そうなれば他国に拠点を移せばいい、という感覚があって、その上で「中国やインドに負けないように日本も原発を造れ」と主張する。

 経済紙や経営本を熱心に読んでいる彼は、気持ちはグローバルなのだ。TPPに乗らなければ、日本はアジアの経済競争に乗り遅れる、そう信じて疑わない。原発も同じ。もし隣国の原発が事故を起こせば、その被害は間違いなく日本にも及ぶ。どうせそうなんだから、日本も負けずに原発を造って活用するべきだ、と。彼は平均的な日本人なのかも知れない。

 あいつも、こいつも、ずるいことやって儲けてるんだから、おれらだけ正直にやってたら負けちゃうべさ、という感じ。経営手腕とか、商売上手とかって、こういうレベルなのかなって、少し哀しくなりました。

(工藤 稔)

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