参院選が終わった。マスメディアの予想通り、自民党の大勝だった。投票率も、予想通りの体たらく。これが民意なのかと言いたくなるが、そうなのだ、これが民意なのだ。

 衆参の「ねじれ」がなくなって、国会は憲法改悪に突き進む自民党と、その補完勢力に占拠されたような状況にある。自衛隊を国防軍にして、「友達が撃たれたときに、そばで黙って見ているのか」などという幼稚な仮説を振りかざすことで集団的自衛権を容認し、米軍の手先となって戦場に出てゆく道が現実のものとなる。

 六十二歳になる私は、満州から旧ソ連・ウズベキスタンに捕虜として連行された父親から、戦争にまつわる話をポツリポツリと聞かされて育った。

 「大きな劇場を建てる現場で働いたんだ。ソ連という国は、女の人も男と同じように働いていて、その現場の監督はナターシャという、若くてきれいな女の人だった。父さんは、はじめはレンガを焼く仕事をしていたんだけど、途中から、多分、あの女の監督がそうしてくれたと思うんだが、兵隊のご飯を作る仕事に回された。スープの鍋の下の方に肉が沈んでいる。それまで威張っていた上官が、下の方をかき回してほしくて、父さんにおべっかを使うようになってな。日本に帰ることが決まった時、ナターシャに『ここに残って、結婚しよう』って言われた。もしあの時、父さんがナターシャにクラッとしていたら、お前は生まれていなかった、ハハハ。この話、母さんには内緒だぞ」

 あの時代、逆らいようもなく兵隊に「とられた」、ごく一般的な青年の、普通に悲しく切ない物語である。戦闘員と非戦闘員を合わせて三百十万人の日本人が命を落とし、二千万人の他国の人々を殺した先の戦争が終わって六十八年間、私たちは一人の戦死者も出さずに過ごせた、つまり「英霊」と呼ばれる犠牲者を生まずにすんだ、世界でも稀有な国民である。別な言い方をすれば、六十八年間、戦争と言う「殺人」を犯さずに済んだとも言える。すべては、自民党とその補完勢力が「改悪」を叫ぶ現憲法のお陰なのだ。

(工藤 稔)

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