異性を意識し始めた中学二年生の新学期、私は学級の委員を選ぶときに、なんとなく強引に、周囲には多分見え見えで、好きだった子を図書委員に推した。図書委員は花形だった。本をあまり読まないらしいその子は、図書委員に向いていなかった。そのうちに、彼女の悪口が聞こえてきた。「あいつ、何にも知らないんだぜ」「貸出カード、しょっちゅう間違えるし、バカなんじゃないの」、そんな感じ。

 もう五十年も昔の、愚にもつかない、けれど頭の片隅にトゲのように残っている記憶が蘇った。このような感覚を「既視感」というのかな、と思った。安倍晋三首相の強引な、お仲間人事の無様な結果を次々に見せられて、である。

 二十一日付朝日新聞朝刊。参院予算委員会で民主党議員に集団的自衛権の定義について質問された小松一郎・内閣法制局長官は「私がうかつに答弁し、『後で訂正するのはけしからん』となるのは非常に良くない」と答弁を避けた。民主党議員は「あなたの担当だ」と繰り返し追及したが、外務省国際法局長も務めたはずの小松長官は「自衛権は国際法上の概念だから、外務省から聞いてほしい」と逃げたのだという。朝日の記事には「集団的自衛権の定義は、『自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利(1981年の答弁書など)と確立している』」とある。「憲法の番人」どころか、こんな答弁もできない長官など無用の長物以外の何物でもない。

 NHKの会長や経営委員の人選をあげつらうまでもなく、好き嫌いや特定の思惑をはらんだ人事というものは、いずれ綻びが露呈する。この国のリーダーたる男が、そんな自明のことも分からないのかね…。枕はここまで。

(工藤 稔)

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