白衣の作業員が床に落ちた、ドロドロのひき肉のかたまりをかき集めて大きな機械に戻し入れる映像を数日間、繰り返し何度も見せられた。その度に、テレビの前で家人と二人、顔を見合わせる。言わず語らず、お互いに「あれって、そんなに問題にされることなの…」というテレパシーが交差する。文字にすると

 「後で焼いたり、煮たりするんだから、殺菌されるんじゃないの」

 「あの程度の工程は織り込み済み、いわゆる想定内じゃないか」

 「どこの誰が手を掛けたか分からない既成の食品を金を出して買うという行為は、そうした危険をあらかじめ承知した上のことよ」

 「むしろ、あの肉の中にどれほどの食品添加物が加えられているか、そっちの方を心配すべきだろう」

 「人件費の安い国に出て行って、より安く、さらに安くの行き着く先よ。ずい分昔のことだけど、暮しの手帖の花森安治が、消費者はオオカミになってはいけないって警告したのは、こういうことだったのね」

 そんな感じ。

 家人は、滅多に外食をしない。「家で納豆ご飯を食べるのが一番。それに自家製の漬物とみそ汁があればもう十分」という生活観の持ち主である。そんな彼女だが、と言うか、だからと言うべきか、マクドナルドとか、ミスタードーナッツとか、あの手のものがすごく好き。半世紀前、インスタントラーメンがご馳走だった時代の申し子、の典型のような人なのだ。

 去る日曜日、買物公園のイベントの手伝いで、早朝からテント張りの作業を終えて、ふと「マックを買って帰ったら喜ぶな」と思いついた。入り慣れない店で、おずおずと「普通のハンバーガー二つ下さい」と注文すると、「ハンバーガーは十時からです。今の時間はマフィンをどうぞ」と愛想の良いお兄さんが言う。マフィンなるものを知らない、新しい物に弱いオジサンは、ハンバーガー屋がハンバーガーを売っていないことに驚愕し、戸惑いながら、お兄さんに「それ、おいしいですか」と尋ねた。お兄さんは私を憐れむような笑顔で、「歯ごたえのあるソーセージがおいしいですよ」と勧めたのだった。

 で、その日の朝食は、豚肉のソーセージのようなものが挟まったマフィンになった。なんと、一個百円。二つで二百円、当たり前だけど。「これって原価、いくらなのかしら」「店にはお兄さんと、お姉さんと二人いたよ。人件費だけでも大変だあ」「お金がない若い人たちは、これで一食終わらせるのかしら」「飯として、これと揚げたイモ食ってちゃ、元気出ないべ。草食男子が増殖するの、分かるな」、なんて話を交わしたのだった。

(工藤 稔)

(全文は本紙または電子版でご覧ください。)

●お申込みはこちらから購読お申込み

●電子版の購読は新聞オンライン.COM

ご意見・ご感想お待ちしております。