十月の連休に、家人と一泊の旅をした。目的は温泉。いえいえ、行楽が目的ではありません。六十歳を過ぎてから、身体の劣化の度が著しく、皮膚が弱って一部はただれる症状に悩まされている。特に頭皮がフケのように落ちて、黒っぽい背広やシャツを着れない状態なのだ。そこで、昔から皮膚病に効能があるとして知られ、最近は全国からアトピーの疾患をもつ人が押し寄せていると聞く、豊富温泉に行ってみるか、となった。
北に向かって国道四〇号を走る。比布町(六七・八)、和寒町(六八・一)、剣淵町(六三・〇)、士別市(六三・六)、名寄市(三二・五)、美深町(六〇・一)、音威子府村(七二・三)、中川町(七〇・三)、天塩町(六九・八)、幌延町(六三・一)、そして豊富町(七九・〇)へ。
( )の中の数字は、二〇一〇年から三十年間での、二十歳~三十九歳の女性人口(若年女性人口)の減少率だ。つまり比布町では、二〇四〇年には、出産する可能性が高い二十代、三十代の女性が六七・八%減る、だから生まれる子どもが少なくなる、その結果人口が加速度的に減少し、自治体が消える、ということだ。もちろん予想だが、政治や経済の予想・予測に比べて、人口の予測は極めて精度が高いとされる。近ごろ話題のベストセラー「地方消滅」(増田寛也著・中公新書)の中で示された数字である。
このまま手をこまねいていれば、二〇四〇年には、全国八百九十六の自治体が消滅しかねない、と同書は警告する。その消滅する自治体の中には、旭川市も含まれる。旭川市の二〇四〇年時点での若年女性人口の予想減少率は五三・〇%。現在三十四万人の人口が二〇四〇年には、二十四万人に減少し、若年女性人口は、三万九千人から、一万八千人に激減するとの予測だ。名寄市だけが、消滅の可能性を免れているのは、基幹産業の農業の堅実さと、公立大学や総合病院の存在、そして陸上自衛隊が若年女性人口の流出を防ぐと予測されるものか。研究に値する。
美深町を過ぎて音威子府村あたりまで行くと、離農した農家の跡地に、堅牢なサイロだけがニョッキリと立つ光景を何度も見るようになる。厳冬期には零下三十度を下回る日が続き、自動車などなく、移動手段は馬橇だった時代、半年間は雪に閉ざされる暮らしの中で、どれほどの情熱と、いかほどの資金を注ぎ込んで、このサイロを建てたものか。そして、文字通り心血を注ぎ込んで切り開いたこの地を捨てなければならなくなった時、どんな悲哀を引きずって去って行ったものだろう、そんな話を家人と交した。

(工藤 稔)

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