昭和三十年代、敗戦から十二、三年という時代に小学生だった私は、戦艦榛名だの、ゼロ戦だの、ロンメル戦車だの、兵器のプラスチックモデル作りに熱中した。周りの友達もそうだったし、漫画誌に「紫電改のタカ」が連載されたりもしていたから、あの頃、「戦争」を懐古する風潮があったのかも知れない。

 遅れて生まれてきた軍国少年は、戦車や戦闘機の操縦席に座る自分の姿を想像して遊んだ。作り上げたゼロ戦を手に、「ブーン、ダッダッダッ」と敵のグラマンと空中戦を繰り広げる…。大正十四年生まれ、男がことごとく兵隊に取られた職場でその代わりに仕事をし、食べ物がない時代を過ごして、シベリア帰りの父と所帯を持った母親は、戦争ごっこに熱中する息子をどんな気持ちで見ていたのだろうと、今になって思う。

  十九日付の各紙は、安倍晋三首相が米国の空母に乗艦したと報じた。読売の記事を引く。

  ――安倍首相は18日、米海軍横須賀基地(神奈川県横須賀市)に今月から配備された原子力空母「ロナルド・レーガン」に乗り込み、艦内を視察した=写真。代表撮影。現職首相が米空母に乗艦するのは初めて。安全保障関連法成立を踏まえ、日米同盟の結束をアピールする狙いがある。(後略)

  首相はブリッジや格納庫を視察したほか、搭載されている戦闘機の操縦席に座り、説明を受けたという。操縦席でニコニコする首相の写真が、朝日だけに載った。その写真に、失礼ながら、幼児性をたっぷりと残したこの方の本質を見た。「ブーン、ダッダッダッ」をやってみたいのだ、きっと。

  その米空母に向かう前に、首相は神奈川県沖の相模湾で行われた海上自衛隊の観艦式に出席している。訓示の中で、安保関連法について「国民の命と平和な暮らしを断固として守り抜くための法的基盤だ。積極的な平和外交を今後、一層強化していく」と一連の常套句を並べたてたという。

(工藤 稔)

(全文は本紙または電子版でご覧ください。)

●お申込みはこちらから購読お申込み

●電子版の購読は新聞オンライン.COM

ご意見・ご感想お待ちしております。