酒の席で、「忙しい理由」の話になった。「いつでも使える携帯電話を持って、一人に一台車があって、原稿用紙に鉛筆で書くのではなく、パソコンだの、メモリーだの、インターネットだの、これだけ便利な機器がそろっているのに、何だか、三十年前より、よほど忙しい気がしないか? おかしいと思わないか?」と。酔いもあって、議論が白熱したのだが「不必要に多すぎる情報」が忙しい気分にさせる理由の一つだという結論になった。

 時間をかけて吟味する余裕がないままに、新たな情報、ニュースが次々に押し寄せて来る。今日も、英国の欧州連合(EU)離脱に端を発する世界同時株安、急激な円高進行、景気はどうなる、さあ大変だあ、と大騒ぎ。各紙一面の黒い大見出しを見せつけられると、日本の片隅の北海道の地方都市で、小さな週刊新聞をつくっている私まで、浮足立ってワアワア走り回らなきゃならないような、そんな気持ちに駆られる。

 よし、ここは落ち着いて、ちょうど一カ月前、五月二十六、二十七日に開かれた伊勢志摩サミットを振り返ってみよう。

 安倍晋三首相は、海外に出かけることがお好きなようだ。例によって「地球儀を俯瞰(ふかん)する戦略的な外交」などと、キラキラ言葉で国語が弱い日本国民を煙に巻きながら、アジアからヨーロッパ、アフリカなどなど文字通り地球中を政府専用機で飛び回り、政府開発援助(ОDA)の名のもとに湯水のように金をばら撒いて外交力を誇示した、ように外交などとは縁遠いところで暮らす私には映る。

 そして迎えた伊勢志摩サミット。オバマ米大統領が、現職大統領としては初めて広島を訪問し、謝罪するとかしないとか、矮小な論議が流布され、注目を集めた。それだけだった。英国のEU離脱騒動が起きて、政治経済に疎い家人でさえ、「あの伊勢志摩サミットって、何をするための会議だったの? G7を自称するお偉方たちは、たった一カ月後の、この事態を、全く予測出来なかったということなの?」と頭をひねるのだ。

 安倍首相の「地球儀を俯瞰する外交」の成果が、外務省のホームページで披瀝されている。八年前の二〇〇八年七月、我が北海道で行われた「洞爺湖サミット」と、今回の「伊勢志摩サミット」を比べてみる。

 「洞爺湖サミット」のG8は、福田康夫(日本)、ハーパー(カナダ)、サルコジ(フランス)、メルケル(ドイツ)、ベルルスコーニ(イタリア)、メドベージェフ(ロシア)、ブラウン(イギリス)、ブッシュ(アメリカ)。

 拡大会合には、オーストラリア、ブラジル、中国(胡錦濤)、韓国(李明博)、インド、インドネシア、メキシコ、南アフリカ、アルジェリア、エチオピア、ガーナ、ナイジェリア、セネガル、タンザニアの計十四カ国が参加。

 一方の「伊勢志摩サミット」には、ロシアがウクライナ制裁で除外されてG7に。安倍晋三(日本)、オバマ(アメリカ)、オランド(フランス)、メルケル(ドイツ)、キャメロン(イギリス)、レンツィ(イタリア)、トルドー(カナダ)。

 拡大会合には、チャド、インドネシア、スリランカ、バングラディシュ、パプアニューギニア、ベトナム、ラオスの計七カ国。

 主な議題として、「アジアの安定と繁栄」「開発アフリカ」が掲げられたにもかかわらず、そのアジアやアフリカからの参加は大きく減った。お気付きのように、アジアの有力国、中国やインド、韓国、オーストラリアは軒並み不参加だった。これだけを見ても、安倍首相が自画自賛する地球儀を俯瞰する外交は、失敗だったと分かる。だいたい、「俯瞰」などと上から目線の外交が、いくら金をばら撒いて歩き回ったところで歓迎されるはずがないではないか。

 

(工藤 稔)

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