私たち国民は、甘いから、完全になめられている。修飾語を多用したキラキラ言葉を使えば、いつまでも、いくらでも騙し続けられると。

 「農業、観光など『未来』の成長分野への投資、子育て、介護など一億総活躍の『未来』を切り開くための投資。輝かしい『未来』に向かって、力強いスタートを切る」

 安倍晋三総理大臣が、今度は「未来」へと国民の目を誘導し始めた。ついこの間までは、「日本を取り戻す」と叫んで、日本が世界の真ん中で輝いていた時代、おそらく戦前の、大日本帝国憲法の下で、国民が天皇陛下の赤子だった、あの時代への回帰を目指していたのに。ひょっとして、その準備態勢が整いつつある現状から、警戒する国民の目を逸らすためのカムフラージュか。

 安倍首相は、歴史認識が自身と極めて近い、中国・韓国との関係上かなり危険な稲田朋美氏を防衛相に据えた新内閣を発足させた、その日に合わせて、事業規模二十八・一兆円の経済対策を閣議決定した。そのメニューの一部を紹介すると――

 【一億総活躍社会の実現】(三・五兆円)として、「雇用保険料引き下げ」「年金受給資格期間を二十五年から十年に短縮」「低所得者に一万五千円を支給」

 【二一世紀型のインフラ整備】(十・七兆円)として、「大型クルーズ船対応の港湾整備」「リニア中央新幹線の全線開業を最大八年前倒し」

 【英国のEU離脱問題への対応や地方支援】(十・九兆円)として、「中小企業へのセーフティーネット貸付の金利引き下げ」「街おこしに向けた交付金の創設」

 安倍首相は、この経済対策を「未来への投資」だと自賛し、国内総生産(GDP)を一・三%押し上げる効果があると喧伝する。

 首相お得意のキラキラ言葉には、もう騙されまいぞ。安倍政権の応援団を隠さない読売新聞でさえ、その眉唾ぶりを指摘する。「問われるのは規模より中身だ」と見出しを打った三日の社説は、珍しく辛口だ。

 ――(前略)民間支出を事業規模にカウントするなど、苦労して総額の拡大を演出した感が否定できない。

 内容にも疑問が残る。

目玉の一つとして三兆円を投入するリニア中央新幹線の東京―大阪間の開通を2045年から最大8年間前倒しする施策に、どんな経済効果があるのか。

 (中略)公共投資に使途を限る建設国債の増発が、無駄な公共投資につながらないか。この点も心配だ。

 消費喚起策として、低所得者に1人あたり1万5000円を現金給付する事業は問題が多い。

 消費税対策の「簡素な給付措置」をやめ、今後2年半分を一括で渡すという。これで打ち切りとなれば、受給者は買い物より貯蓄に回すのが自然だろう。(後略)

 安倍政権の広報紙と揶揄される読売でさえ「心配」する。それほど危ない経済対策ということだろう。だいたい、貧乏人に現金を恵んでやる愚策を、経済対策などと呼んでいいのか?

 

(工藤 稔)

(全文は本紙または電子版でご覧ください。)

●お申込みはこちらから購読お申込み

●電子版の購読は新聞オンライン.COM

ご意見・ご感想お待ちしております。