時々刻々とトランプ、クリントン両候補の獲得選挙人の数が積み重ねられるテレビニュースを眺めながら、家人が「どういうことなのかしら。予想と全然違うじゃない」と首を傾げる。
私はこんな説明を試みた。「マスコミの世論調査とか、期日前投票後のアンケートとか、おそらくアメリカでも投票所の出口調査をするんだろう、その質問に有権者がウソを言ったんじゃないか? 実際はトランプに投票したのに、クリントンと答えた。アメリカの主要な新聞五十五紙がクリントン支持を表明し、トランプ支持はたった一紙だったそうだ。トランプに投票するヤツなんて、まともじゃない、そんな雰囲気が合衆国を覆ったのだろう。既成の権威的勢力、いわゆるエスタブリッシュメントを擁護する側に立つクリントンではなく、やんちゃなことを言って、その既成の権威をぶち壊してくれそうなトランプに投票したけど、口には出さない。変なヤツと思われるから。その小さなウソが集まってマスコミの予想を間違えさせた」
十日付朝日の一面に載った山脇岳志・アメリカ総局長の評論の一部を紹介しよう。「内向きな超大国のリスク」と見出しを打った記事は、次のように始まる。
――大方の予想は覆された。差別的発言を繰り返し、極端な保護主義を掲げるトランプ氏が、超大国のトップに就く。
そして、トランプ氏の「再び偉大な米国へ」というスローガンが労働者層はじめ多くの白人の心を打ったこと、移民に対する白人中間層の「反乱」などトランプ勝利の理由を探しながら次のように書く。
――トランプ旋風が全米を席巻するにつれ、「post-truth politics(真実を超えた政治)」という言葉を聞くことが多くなった。不都合な事実から目をそむけ、心地の良い言葉だけを追いかける。トランプ氏が唱えた「偉大な米国」の夢が裏切られた時、米国民の行動は予想がつかないものになるかもしれない。
かつてなく「内向き」になった米国。世界は、その変容を覚悟し、向き合わなければならない。(引用終わり)
「真実を超えた政治」、この言葉は私たち日本人も、かなり身近に感じることができる。感じようと思う人は、だが。
トランプ氏が勝利宣言をした直後、安倍晋三首相は、祝辞を送った。歯の浮くようなヨイショの祝辞の中に次のような文言がある。
「日米両国は、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった普遍的価値の絆で固く結ばれた、揺るぎない同盟国です」
「日米同盟は、国際社会が直面する課題に互いに協力して貢献していく『希望の同盟』であり、トランプ次期大統領と手を携えて、世界の直面する諸課題に共に取り組んで…」
片や、「全てのイスラム教徒のアメリカ入国を拒否すべきだ」「メキシコとの国境に『万里の長城』を建設し、メキシコにその費用を払わせてやる」と言い放つ次期大統領。一方の我が総理大臣は、元最高裁長官や内閣法制局長官の経験者、多くの憲法学者らが「憲法違反」と指摘する安全保障関連法案を強権的に成立させ、基本的人権の制約を謳う自民党の憲法草案を国会の憲法改悪論議の〝たたき台〟とすると公言してはばからない。
トランプ氏と安倍首相が、どんな普遍的価値を共有していると言うのだろう。私たち国民は安倍首相お得意の「真実を超えた政治」にからめ取られていることを自覚しなければならない。枕はここまで。

(工藤 稔)

(全文は本紙または電子版でご覧ください。)

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