米国・トランプ新政権の国防長官が来日し、四日、我が稲田朋美防衛大臣と会談したと報じられた。トランプ大統領は選挙戦の中で、「米軍の駐留経費を日本が全額負担しなければ米軍撤退もあり得る」と主張した経緯がある。報道によると、稲田大臣とマティス長官との会談では米軍駐留経費負担は議論にならず、その後の共同記者会見でマティス長官は、「日本はコストや負担の共有に関してモデルとなってきた。他国が見習うべきお手本だと言える」と述べたそうな。隣で、大きなリボンを付けた、悪趣味の極みのスーツを着込んだ稲田大臣が、お褒めの言葉を頂いてニコニコする映像を見せられた。

 国防長官の「他国のお手本」という賛辞は、決して大げさではない。一月三十一日付朝日デジタルによると、「八六・四%」か「七四・五%」か、日米で負担率の説明に差があるらしいが、いずれにしろ同じように米軍が駐留しているイタリア(四一%)、韓国(四〇%)、ドイツ(三三%)に比べれば、その突出ぶりは際立っている。

 過日、米国テキサス州出身のリラン・バクレー監督のドキュメンタリー映画「ザ・思いやり」を観た。「思いやり予算」とは、一九七八年(昭和五十三年)、当時の金丸信・防衛庁長官が、在日米軍基地で働く日本人従業員の給与の一部、六十二億円を日本が負担すると決めたことに始まる。日米地位協定の枠を超える、法的根拠がない、条約でも一切義務付けられていない負担である。円高ドル安などによるアメリカの負担増を考慮し、金丸長官が国会で「思いやりの立場で対処すべき」と答弁したことから、「思いやり予算」と呼ばれるようになった。

 アメリカ人の監督は、「日本の経済が苦しいのに、なぜ日本人が、ここまでアメリカ軍を思いやらなければならないの?」と素朴な疑問を抱き、沖縄で、横須賀で、アメリカで、カメラを回す。私たち日本国民の税金で、在日米軍の将兵のための瀟洒な住宅が建てられ、小学校や中学校、教会、銀行、テニスコートやゴルフ場がつくられる。果ては、ハンバーガーチェーンのマクドナルドの店舗の建設費まで私たち国民が出しているという事実を知らされるのだ。

 治外法権の米軍キャンプの住宅の電気やガス、水道料金も私たちの「思いやり」で賄われるから、使い放題。有料道路はレジャーで走っても全てタダなんだと。米兵による事件や事故の賠償金にも、この思いやり予算が使われる。沖縄の少女を暴行した米兵が払うべき金を日本国民が負担する。年間、米兵一人当たり千三百万円という巨費を支給し続け、これまでに六兆円以上が投入されたという。

 沖縄県民の人権を蹂躙し、世界的に貴重な自然を破壊して強行されようとしている、辺野古・新基地建設も、高江・オスプレイ着陸帯建設も、全て私たちの税金でつくられる。「普通の暮らしがしたい」という国民・沖縄県民の声は圧殺し、米軍にはたっぷりの思いやりを注ぎ込むのだ。

 

(工藤 稔)

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