約束してくれた通り、電話があった。「もしかすると、明日で閉店するかも知れません」と。カレー専門店「米々亭」(六ノ十二)が閉店するという話を耳にしたのは一月の終わりころ。小紙の創刊時からの購読者、加えて二十三年間、広告を出し続けて支えてくれた有り難いお店だ。話を聞かなければと、お店を訪ねると、オーナーの品田春子さん(65)に、「閉店の話が広がって、ものすごく忙しいの。いま記事になったら、大変なことになってしまう」とやんわりと取材を断られた。が、粘る私に根負けしたのか、品田さんは「スパイスがなくなって、閉店が近くなったら必ず連絡するから」と約束してくれたのだった。

 一カ月余り過ぎた夕方、品田さんから電話があった。「今なら、お客さんが途切れたから話ができます」。急いでお店に向かった。

 「米々亭」の開店は、一九七九年(昭和五十四年)一月二十二日だそうだ。旭川のスパイスカレーの〝根っ子〟と言えるお店。その名を知られるカルダモン(春光四ノ九)も、アジア金星堂(東五ノ十一)も、アンクルペパリー(一ノ二十二)も、経営者はここの出身者だそうだ。

 創業者のご主人、品田一彦さんが直腸ガンで亡くなったのは、二〇〇二年(平成十四年)九月のこと。以来、奥さんの春子さんが店を続けて来た。

 「夫が逝って十五年、義母が亡くなって丸三年。もういいかなぁ、背負って来たものを軽くしたいなぁって思ったの」

 「一彦さんは、ちょっとシャイで、すごくいい人だった。もう一度会いたいと思う。きっと『お前、よくやったよ。もういいぞ』って言ってくれている、そう言ってほしい、そんな気持ちです」

 店の向かいの東高の生徒たちがよく食べに来てくれた。ネットで噂が広がったのだろう、閉店を宣言したここ二カ月ほど、首都圏や遠くは沖縄から、ОBやОGがやって来る。取材している間にも、お昼に食べに来たというお客が、今度は奥さんと一緒にやって来た。店内には「美味しいカレー! ありがとうございました。本当にお疲れ様でした」とメッセージカードが添えられた花束が寂しげに飾られていた。

 「お客さんに恵まれました。そしてスタッフにも恵まれました。そのお陰でこの十五年、十二分にやらせてもらいました」と春子さん。閉店後は、店の建物も解体して更地にするつもりだ。「スカッと、潔くね。あとは九十一歳で一人暮らしをしている母親に最後の孝行をするの」。ここ一カ月ほど、来店した客に手渡している「閉店のお知らせ」には、「満足感と達成感」「とてもさびしいですが、例外はなく、始まりがあって終わりありですね。みなさまお世話になりました」とあった。旭川から名店がまた一つ姿を消すことは残念だが、そのけれんみのない閉じ方は、見事だと思う。「米々亭」は五日、店を閉じた。閉店の報を枕に使わせていただく無礼、お許しを。

(工藤 稔)

(全文は本紙または電子版でご覧ください。)

●お申込みはこちらから購読お申込み

●電子版の購読は新聞オンライン.COM

ご意見・ご感想お待ちしております。