六年前、フクシマの原発事故による放射能から逃れて旭川に避難して来た女性が、三月末で宮城に帰ることを決めたと連絡があった。小欄でも取り上げさせていただいたことがある水上裕美さん(55)。仙台市の南の町から、長女(29)と長男(28)とともに、着の身着のままの状態で自主避難して来て丸六年が過ぎた。一夜、送別会を兼ねてお会いし、話を聞いた。

 故郷に帰るのは水上さん一人で、二人の子どもは旭川に残るという。長男は、放射能に対する恐怖もさることながら、「事故の後も逃げずに宮城で暮らし続けた人たちとの意識のギャップが耐えられないから、もう帰る気はない」と言っているという。

 水上さんの夫は、町役場の職員。町は原発事故による避難指示などはなかった。夫は地震被害の仕事に追われ、家族と離れて一人暮らしを強いられた。線量計を用意して夫の元に帰るという水上さんに、その理由を聞いた。

 ――次男に自衛隊を辞めるよう説得するためです。南スーダンに派遣されたPKО部隊は五月に撤退するようですが、その後も、例えばシリアに派遣されるかもしれません。去年成立した安保法制によって駆け付け警護など新たな任務を与えた部隊を南スーダンに派遣したのは、実績づくりのためだったのでしょう。トランプ大統領に頼まれたら、安倍首相は喜んで自衛隊をどこにでも送り出すに違いありません。その前に、息子にどうしても自衛隊を辞めてもらわなければ。雨樋の水の放射線量を測ったら、きっと避難指示のレベルでしょうけどね。

 話題は、国が避難指示を次々に解除し、今月末には避難者への住宅の支援を打ち切る話になった。水上さんは憤る。

 ――「放射線管理区域」よりも線量が高い村や町に、帰れって言うんですよ、子どもや妊婦も。これって長い時間をかけた人殺しだと思う。チェルノブイリと同じように、十年後、十五年後に、被ばくのためにガンが多発するようになるでしょう。国はきっと、放射能の因果関係は証明できないと逃げるのよ。誰も責任を取らない。すべて自己責任。自主避難した私は、最初から補償なんて期待しなかったけど、突然、避難を命じられ、家も、家族も、仕事も、故郷も、すべて捨てさせられて避難した人たちの住宅支援を打ち切るなんて、この国ってひどい国よ。危険な地域から住民を強制的に移動させた旧ソ連の方がよほど人間的だと思う。

 この国もひどいけど、大マスコミもひど過ぎる。3・11を前にした読売新聞七日付の社説は「福島原発廃炉 ようやく『登山口』にまで来た」と見出しを打って、次のように書く。

 

(工藤 稔)

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