テレビのニュースを見ていた家人が、「自画自賛、大言壮語、恥知らず、そっくりよね。双子のように、同時代に現れる。歴史の不思議ってあるものなのね」と言う。彼女が「双子のよう」と評するのは、トランプ・米大統領と安倍首相。「恥知らず」というのは、トランプ大統領が初の外国訪問でサウジアラビアに出かけて行き、千百億ドル(十二兆円)規模の武器売却を決めて「米国の雇用や貿易に寄与する」と胸を張る姿と、フクシマ原発の事故を起こした当事国の首相がインドやトルコに原発を売り込もうとする厚顔のことである。

 「武器商人が蔑称だということ、この大統領は知らないのね。金になれば何でもいい。アメリカの国民も、こんな拝金主義者を選ぶなんて、格差社会の広がりで不満が充満している現れなのかな。『美しいニッポン』を叫ぶ総理大臣が、国民を被曝させ、国土を放射能まみれにしちゃったのを恥じもせず、原発のセールスをするなんて。二人が気が合うというのは分かる。価値観が同じなのよ。日本という国、すごい勢いで、すごく嫌な国になってる。私はじきに死ぬから、見なくてすむけど…」。彼女はため息をつく。何度も。

 松岡洋右という名前が頭に浮かんだ。一九三三年(昭和八年)、日本が国際連盟を脱退したときの全権大使。中学だったか高校だったか、歴史の教科書に載っていた、松岡が議場を退席する写真を今も記憶する。脱退の理由は、国際連盟が派遣したリットン調査団の満州国についての報告書。ごく大雑把に言えば、日本の満州における特殊権益を認めながら、日本の軍事行動を「自衛」とは認めず、満州国の分離独立は国際的に認められないとする内容。日本にとっては実は「名を捨て実を取る」ことを認める報告書だった。しかし、日本は反発する。連盟の総会でリットン報告書は、賛成四十二票、反対一票(日本)、棄権一票(シャム=現タイ)、投票不参加一国(チリ)と圧倒的多数で可決され、歴史教科書にあった、あの「松岡全権大使退場」の場面となる。

 その後、日本政府は正式に連盟脱退を通告。翌日の新聞の一面には「連盟よさらば」「連盟、報告書を採択 わが代表堂々退場す」の文字が一面に大きく掲載されたという。帰国した松岡を日本国内世論は拍手喝采、「英雄」として迎えたとされる。日本人だけで三百十万人、中国、朝鮮、台湾、フィリピン、ベトナム、ビルマ、インドネシア…、おそらく二千万人に達する人たちが命を落とすことになるあの戦争へと向かう一つの分岐点となった事件だった。

(工藤 稔)

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