前号で、今回の“くそったれ解散・選挙”で、私が投票所に足を運ぶモチベーションの一つは、原発の近未来だという趣旨のことを書いた。その後、新聞に載る週刊誌の広告で、「自民大敗で安倍政権退陣へ」「さよなら安倍総理」みたいな見出しを何度か見せられた。ところが十二日付の各紙は、「自民 単独過半数の勢い」「自公300議席超うかがう」などと一面で大きく報じた。まるで、衆院の解散権を私物化する首相の企みが大成功に向かっているかの記事を読まされて、「懲りない国民」の一人でいる現実に得も言われぬ絶望を感じたのだった。

 九日付毎日新聞は、「気色ばむ首相 朝日批判」「加計問題で応酬」の見出しで、八日に行われた日本記者クラブ主催の党首討論会で、安倍首相が加計学園の獣医学部新設についての報道をめぐり、朝日新聞を批判したと報じた。首相は、朝日の報道姿勢について「ぜひ国民の皆さんに新聞をよくファクトチェックしていただきたい」とまくし立てたという。
 「ファクトチェック」とは、政治家らの発言が事実に即しているか、誤りがないかを検証し、その信憑性を評価するジャーナリズムの手法だ。朝日は、度々安倍首相を含む政治家らの発言や議会での答弁を「ファクトチェック」して紙面化している。首相は、注目度が高い党首討論で〝目の敵〟とする朝日に意趣返しを目論んだのだろうが、他紙の毎日にまで「ファクトチェック」されるはめになった。この方、事実を承知した上で、故意に誤った情報を国民に押し付けようとしているのか、それとも誰かから与えられたエセ情報を信じ込んでいるのか、分からない。

 九日付朝日は、「首相『朝日新聞、ほとんど報道していない』」「国家戦略特区WG座長の発言など」「3月以降 10回以上掲載」の見出しで、「ファクトチェック」という言葉を使わず、抑え気味に伝えた。以下、引用する。

 ――(前略)党首討論会で朝日新聞の坪井ゆずる論説委員は今年7月の衆院予算委員会の閉会中審査で、首相が加計学園の獣医学部新設計画を知ったのは今年1月20日だったとした発言をただした。

 だが安倍首相は直接答えず、「まず、朝日新聞は八田(達夫・国家戦略特区ワーキンググループ座長)さんの報道もしておられない」と返した。坪井論説委員が「しています」と反論すると、「ほとんどしておられない。しているというのはちょっとですよ。アリバイづくりにしかしておられない。加戸(守行・前愛媛県知事)さんについては、(国会で)証言された次の日には全くしておられない」と述べ、坪井論説委員は再度、「しています」と反論した。(後略)

 記事は、八田氏の国会での答弁や発言を三月以降十回以上、加戸氏についても閉会中審査が開かれた翌日の七月十一日と二十五日の朝刊で詳細に報じたり、「時時刻刻」の中で発言を引用していると首相の発言の誤りを正している。

 作家の池澤夏樹が朝日新聞の夕刊に二〇〇四年から、月一回書いている「終わりと始まり」の十月四日付の見出しは「絶望の一歩手前で それでも愚直に選ぶ」だった。讃岐から届いた栗の皮を愚直に剥(む)きながら、その作業の対極にある政治家という職業について池澤は次のように書く。

 ――この数年間、安倍晋三という人の印象はただただ喋(しゃべ)るということだった。(中略)機械工学で言えばバルブの開固着であり、最近の言い回しを借りればダダ洩(も)れだ。

 安倍首相は主題Aについて問われてもそれを無視して主題Bのことを延々と話す。Bについての問いにはCを言う。弁証法になっていないからアウフヘーベンもない。(中略)

 現政権の面々はほとんどが富裕層の出身である。有権者の九割九分は富裕層ではないのに、なぜ彼らに票を入れるのだろう。

(工藤 稔)

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