野中広務さんが亡くなった。九十二歳。翌二十七日、各紙朝刊が一面で伝えた。朝日新聞の見出しには「護憲派」、北海道新聞の見出しには「ハト派」の文字があった。

 野中広務の名前を聞いて真っ先に頭に浮かぶのは、麻生太郎・副総理兼財務相の口が曲がった顔である。野中が権力の中枢にいた二〇〇三年、ある会合で麻生は、「野中のような部落出身者を日本の総理にはできないわなあ」と発言したという話だ。後日、野中は麻生も同席する会合で、「君のような人間がわが党の政策をやり、これから大臣ポストについていく。こんなことで人権啓発なんかできようはずがないんだ。絶対に許さん」と罵倒したと伝えられる。麻生は反論しなかったというから、部落発言は事実だったのだろう。そんな男が、いま、極右の「安倍一強」に仕える。日本の政治も、そして社会も劣化に向かうのは当然かもしれない。

 引退後の野中は、政治思想的に対極にあるはずの共産党の機関紙「赤旗」のインタビューに応じたことについて、「政治の最大の役割は戦争をしないこと。『戦争反対』であれば、どんなインタビューでも受けますよ」と答えたというエピソードがある。麻生や安倍に、この方の爪のあかでも煎じて飲ませたかった。ご冥福を祈る。枕はここまで。

 前号の小欄で、市役所の新庁舎の建設費について、「百五十億円だとしたら、生まれたばかりの赤ちゃんも含めて、市民一人当たり、四万四千百円も負担することになる」と書いたら、若い読者から電話があった。ちゃんと話したことはないが、旧知の女性である。「あらら、あさひかわ新聞を購読してくれていたのね」とうれしい気持ちになった。それはさて置き、彼女の話。

 ――今のところ赤ちゃんを産む予定はないんですけど、ただ、市の職員が快適に仕事できる環境を整えるために、赤ちゃんも含めて、私たちは一人四万四千百円も負担するって、どういうことなの? って思って。編集長が言うように、立ち止まってちゃんと考えなければダメですよね。
 市の「こうほう」とかにも目を通していますけど、今の庁舎を壊して、新しい庁舎を建てるのに、どれくらいのお金がかかるのか、正確な金額は示されていないんじゃないですか? 私の周りの、市政に詳しげなオジサンとかも、九十八億円って言ったり、百十億円って言ったり、中には、「百五十億円になる」って断言する人もいたりします。あっ、私、今の赤レンガの庁舎を壊すのは反対ですからね、断っておきますけど。

 今日の直言にも、「百五十億円」って書いてありました。地下駐車場の解体費は分からないみたいだし、一体、正確にどれくらいのお金がかかるのか、教えてくれないと、市民は判断できないと思うんですけど。私は経験がないから分からないけど、家を建てるときって、建築屋さんにちゃんと見積もりをしてもらって、家族で広さとか、間取りとかを相談して、それから「建てよう」って決めるんでしょう? 最終的に幾らかかって、ローンの返済は毎月幾らで、何年で終わるのか、それが分からないで工事を始めるなんて、あり得ないです。どうしたら、旭川市が立ち止まって考えてくれるのか、教えてください。

 右横の「議会みたまま」に、市庁舎建設を所管する総務委員会で、旭川市議会では初の「委員間討議」が行われたとある。テーマは、市が示している「基本設計の素案」。読むと分かるが、一・二・三階のレイアウト、出入り口の数や大きさを含む一階のレストラン、そして地下駐車場に関する議員の論点は、どれも至極もっともな指摘や疑問である。なぜ、今ごろになって、こんな基本的な問題が指摘されなければならないかを考えてみよう。

(工藤 稔)

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