同じ年代の経営者とお会いして市長選挙や旭川大学の公立化、優佳良織の技術の継承などの話をしているうちに、ひょんなことから、安倍政権による「改憲」の話になった。「実は、僕は隠れ改憲論者なんですよ」と笑う彼は、「憲法学者の八割が、自衛隊は違憲と言う。地震や台風の災害現場で命を張って仕事をする自衛隊員がかわいそうだよ。彼らが誇りを持てるよう、憲法九条は変えずに、自衛隊を明記するのは良いことだと思うよ」と言う。市政について時折、情報交換をするのだが、彼と憲法について話したのは初めてだった。

 既視感のような感覚があった。別れてから気がついた。少し前の毎日新聞の記事だ、と。四日付の「特集ワイド」に田村彰子記者が、「安倍首相の『かわいそうだから』」「自衛隊明記で解決するのか」の見出しで書いていた。

 田村記者は、安倍首相は、憲法九条の1項と2項を維持しながら、自衛隊の存在を明記することで違憲論争に終止符を打つのが狙いらしい、と前置きして、次のように書く。少し長いが引用する。

 ――まず、安倍首相の主張を整理したい。山口県下関市で八月に行われた「長州『正論』懇話会」の講演ではこう話していた。

 「近年でも『自衛隊を合憲』と言い切る憲法学者はわずか二割で、違憲論争が存在しています。その結果、多くの教科書に自衛隊の合憲性に議論があるとの記述があり、自衛官の子どもたちもその教科書で勉強しなければなりません。ある自衛官は息子さんから『お父さん、憲法違反なの?』と尋ねられたそうです。その息子さんは、目に涙を浮かべていたといいます。皆さん、このままでいいんでしょうか」

 このような主張を、若干の表現の違いがあるにせよ、国会答弁や自民党総裁選の街頭演説でも繰り返してきた。「息子さん」が涙を浮かべた理由は語られていないので分からないが、何となく「自衛隊がかわいそう」という雰囲気は伝わってくる。

 記事は、内閣府の調査(対象・18歳以上、1671人)では「自衛隊に良い印象を持っている」と回答した人が89・8%に上るというデータを示しながら、憲法に明記されていない当事者の自衛官が自らを「かわいそうな存在」だと思っているかを問う。

 勤続二十年以上の陸自2等陸曹は、「悩みは若い隊員がすぐに辞めてしまうこと、体力の維持が大変なこと、そして人材不足」――。

 防衛省の幹部は「安倍首相が(改憲論の中で隊員の)子どもの話を持ち出すのは情緒的すぎます。30年前ならともかく、とても現在の話とは思えません」とあきれる。

 憲法学者の木村草太・首都大学東京教授は言う。

 「安倍首相が自衛隊を明記する改憲を言い出してから、ずっと自衛官の子どもの話と、自衛隊を違憲とする憲法学者の話をしています。首相の論理の中では極めて重要なポイントだと言っていい。それなのに、その事実関係を確認する人は、報道関係者も自民党の中でも誰もいませんよね」

 田村記者は、安倍晋三事務所に「子どもに泣かれた自衛官はどんな人で、実際にあった被害は何なのか」「自衛隊を違憲だという憲法学者や人数を把握しているか」などの質問状を送ったが、期日までに回答はなかったという。

 さらに、「自衛隊を『合憲』と言い切る憲法学者は二割」というデータは、首相自身が明らかにしているように朝日新聞の調査の引用。木村教授は「朝日新聞の調査は回答率が6割程度です。自民党は、より精密な調査をすべきでしょう」と指摘し、「集団的自衛権の行使容認を合憲とする憲法学者は2割どころか1割弱でしょう。自衛隊より、集団的自衛権の根拠の明記を優先的に検討すべきです」と説く。

 記事は、「自衛隊がかわいそうだから改憲――。そんな情緒的な言い分に流されると、この国の未来が取り返しのつかない事態になるかもしれない」と結ぶ。枕のつもりが、つい…。ごめんなさい。

(工藤 稔)

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