少し前のことなのだが、先月二十一日に投開票された参院選挙について、ずっと胸の中に滓(おり)のような感覚が残っている。自分でもその正体がつかめぬままだったのだが、韓国との関係悪化を積極的に追求する安倍政権のやり方を眺めるにつれ、「あっ、そうだったのか」と納得がいった。今回はその話を。

 翌二十二日の新聞を見て、「おや?」と感じた方はいなかっただろうか。当選確実となった候補の名前に赤い花をつけている安倍首相の表情は、笑っているのだが、「満面の笑み」とはほど遠い、てれたような、納得いかないような、不思議な笑顔だった。見出しは「自公勝利 改選過半数」(毎日)、「1人区 自民22勝10敗」(読売)などと、いずれも「与党が勝った」と報じているにもかかわらず、である。「改憲勢力2/3は届かず」(朝日)との見出しもあったが、各紙は総じて「自・公勝利」という判定だった。

 その報道を受けて、首相は翌日の記者会見で、「『少なくとも議論をおこなうべきだ』、これが国民の審判だ」と憲法改悪に向けて、なりふり構わず走り出す姿勢を示したのだった。だけどね、本当に国民は「改憲の議論をしましょう」って審判を下したのかね。具体的に見てみよう。

 自民党は改選前は六十七議席だったのが、今回の選挙で獲得したのは五十七議席。十も減らしたのだよ。その結果、自民党は参院での単独過半数を失い、連立する公明党に頼らざるを得ない状況になった。まあ、どの選挙も、公明=創価学会の票がなければ惨敗なのだが。何より、首相が忍者みたいな〝ステルス応援〟で自ら乗り込んだ「重点区」で、ことごとく議席を失っている事実だ。

 米大統領のご機嫌取りで導入を決めたイージス・アショア(陸上配備型迎撃ミサイルシステム)の配備計画で揺れる秋田では、野党統一候補の寺田静氏が、自民公認・公明推薦の中泉松司氏に約二万票の差を付けて勝った。首相が二回も応援に入っているのに。

 首相が公示日に応援に駆け付けるほど力を入れた宮城選挙区では、四期目を目指した現職・愛知治郎氏が野党統一候補の新人・石垣のりこ氏に負けた。自民は参院で宮城の議席をすベて失った。同様に、山形選挙区でも自民の現職大沼瑞穂氏が野党統一候補の芳賀道也氏に接戦で敗れ、参院で山形の議席を失っている。

(工藤 稔)

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