師走、新年号の準備に飛び回る日々だ。顔を合わせた複数の方がおっしゃる。「桜を見る会も大事だが、アメリカとの貿易交渉や北朝鮮のミサイル実験、韓国との関係修復…、日本にとってまだまだ大事なことがあるじゃないか。あんなんだから、野党は選挙で勝てないんだよ」。おそれながら、私、同意できません。その具体的理由を書きます。

 今月初旬、たまたま出席した所属する会の例会で、会員の弁護士がスピーチされた。テーマは、「反社会的勢力に対する市民の義務について」。スピーチの中で、弁護士が出席者に質問した。おおよそ次のような内容である。「あなたがアパートの大家さんだと仮定して、暴力団員の奥さんが入居を申し込んできました。小さな赤ちゃんがいるという。暴力団員にも家族はいるし、生活もありますよね。あなたは、部屋を貸しますか? それとも断りますか?」。

 金融機関や企業の例を挙げながら、反社会的勢力に対して私たち市民は、どんな姿勢で臨まなければならないか。日本最大規模の指定暴力団・山口組の大幹部の本拠がある旭川で暮らす私たちにとって、身近で、考えさせられて、大いに参考になる話であった。

 このスピーチを聞いた翌日、安倍内閣は安倍首相が主催する「桜を見る会」に反社会的勢力とされる人物が参加していた疑惑に関連して、立憲民主党の議員から提出された質問主意書の「反社会的勢力の定義」について、安倍内閣は「その時々の社会情勢に応じて変化し得るものであることから、あらかじめ限定的、かつ、統一的に定義することは困難だ」とする答弁書を閣議決定した、と報じられた。

 様々に報道されているから詳細は省くが、そもそも、暴力団だけでなく、暴力団に準ずる組織・団体やその関係団体、あるいは、暴力団ではなくとも社会的に許容されない暴力行為・不法行為などを行っている組織・団体を包括的に捉えた「反社会的勢力」という用語を初めて使い、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」を策定したのは、第一次安倍政権下の二〇〇七年のことである。

 想像するに、安倍政権が「すみやかに破棄した」「データの復元は不可能と聞いている」「バックアップデータは行政文書ではない」などと、見え見えのウソにウソを塗り重ねても、絶対に表に出したくない「桜を見る会」の参加者名簿には、知られたら政権が吹っ飛びかねない名前が載っているに違いない。そして、「もしかすると役人のパソコンかメモリーに、破棄したはずのデータが残っていて、何かのはずみで漏出するかもしれない」との危惧が政権内の共通認識としてあるのだろう。そうでなければ、「痴漢」という犯罪をなくすために、「痴漢は犯罪ではない」という法律をつくるみたいな、いかにも面妖な閣議決定をするはずがない。それとも、この憲政史上最長の政権が完全に壊れているか、どちらかだ。

 十四日付北海道新聞朝刊に、「定義困難と閣議決定」「反社排除どうすれば?」「根拠崩れ道内困惑」の見出しの記事が載った。反社会的勢力ではないと誓約書を取った上で契約を交わしている民間企業や金融機関が、「反社の定義がなければ、契約書の意味がなくなってしまう」と困惑し、場当たり的な「定義」に憤りの声も聞かれると伝える。

(工藤 稔)

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