十八日付の各紙は、四国電力伊方原発三号機について、広島高裁が「運転差し止め」を命じる決定を下した、と大きく伝えた。毎日の一面トップのリードは。

 ――四国電力伊方原発三号機(愛媛県伊方町)の運転差し止めを山口県東部の住民が求めた仮処分申請の即時抗告審で、広島高裁は17日、申し立てを却下した2019年3月の山口地裁岩国支部の決定を取り消し、運転差し止めを命じる決定を出した。森一岳裁判長は「四電の活断層の調査は不十分」と判断。約130㌔離れた阿蘇カルデラ(阿蘇山、熊本県)について「破局的噴火に至らない程度の噴火も考慮すべきだ」とし、安全性に問題がないとした原子力規制委員会の判断は不合理だとした。(引用終わり)

 記事によれば、仮処分を申し立てたのは、原子力災害対策指針などで避難計画の策定が義務付けられていない、原発から三十~四十㌔圏にある島の住民三人だという。フクシマで、原発が一たび事故を起こせば、五十㌔や百㌔の距離は“事故現場”“被災者”になると国民は思い知らされたのに、国は知らんぷりである。

 同じ日の朝日第三社会面に、フクシマの記事が載った。「帰還困難区域 初の解除決定」「3月 双葉・大熊・富岡の一部 常磐線全通へ」の見出し。抜粋引用する。

 ――政府の原子力災害対策本部は17日、東京電力福島第一原発の周辺地域のうち、最も放射線量が高かった福島県の帰還困難区域について、駅周辺などに限って3月に避難指示を解除すると決めた。同区域の解除は事故後初めて。

 (中略)いずれも帰還困難区域に設けられた「特定復興再生拠点」の一部で、東京五輪の開催に間に合わせるため、拠点全体の解除に先駆けて実施する。(中略)

 また原災本部は、双葉町では線量が比較的低かった避難指示解除準備区域(221㌶)の解除も決めた。解除対象の除染は終わっているが、大野駅周辺の線量は年平均9・1㍉シーベルトと、まだ国の解除基準(年20㍉)の半分弱ある。(引用終わり)

 原災本部の本部長は言うまでもなく安倍首相である。記事にサラリと書いているが、この“オリンピックに間に合わせるための”解除によって、三月十七日にJR常磐線の富岡駅―浪江駅間が開通し、原発事故によって不通になった常磐線の全線が再開となるという。

 解除される区域の中に「富岡町夜の森駅周辺」がある。二〇一八年五月、福島県いわき市出身の獣医師・武藤健一さん(69)とともに「フクシマを訪ねる旅」で立ち寄った場所である。福島第一原発から南西方向に約六㌔の地点。事故前は桜並木で知られた。そのJR夜ノ森駅近くで、ヘルメット姿の作業員たちが除染作業にあたっていたのを思い出す。その旅のリポートの一回目に、私は次のように書いている。

 ――被災地をリポートする前に確認しておこう。東電福島第一原発の事故が起きる以前、一般人の公衆被ばく限度は年間一㍉シーベルトだった。今も病院のレントゲン室などの「放射線管理区域」の限度は〇・六マイクロシーベルト/毎時、年間五㍉シーベルトと法律で決められている。二〇一一年以降、放射線技師の被ばく限度が二十㍉シーベルトに引き上げられたなどというバカな話はない。当然のことである。ところが、避難指示が解除される条件の一つが、「年間二十㍉シーベルト以下になることが確実であること」となった。原発事故前の二十倍に緩和されたのである。フクシマに住む人たちは、突然、放射能に対する耐性が高くなったのか?

 避難指示が解除されると、国や東電は賠償金を支払う義務から解放される。「帰れるのに帰って来ないのは、お前たちの勝手だ。我がままだ。だから賠償金は払わなくていい」という理屈である。放射線量が下がって「安全になった」ではなく、基準値を上げて「安全にした」というわけだ。(引用終わり)

 東京五輪の聖火リレーは、福島県楢葉町のJビレッジからスタートするそうだ。世界に向けて「フクシマは完全にコントロールできている」と大ウソをついて招致に成功した安倍首相は、「復興五輪」というキャッチフレーズがホントに見えるように、どうしてもフクシマは復興した、安全なんだ、と粉飾しなければならない。

(工藤 稔)

(全文は本紙または電子版でご覧ください。)

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