仕事の関わりで美瑛町白金温泉のホテルに出かけた。年に数回、こうした一泊の宴会があって参加するのだが、大浴場も、朝食のレストランも、閑散としているのに驚いた。聞けば、この日だけで二百八十人のキャンセルがあったという。ホテルの従業員は、「韓国につづき、中国ですから。大変な事態ですよ」と暗い表情で話した。

 旭川市内のホテルの関係者に聞くと、中国からの団体ツアー客はもともと多くはないとのことで、新型コロナウィルス騒動の影響は大きくはないと言う。そして、「韓国からの個人客が一時に比べて、少し戻って来ている感じだ。ただ今後、新型コロナウィルスの影響が、どんな形で出て来るか、見守るしかない」と不安を隠さない。

 この国の宰相は、「積極的平和主義」だとか、「地球儀を俯瞰する外交」だとか、耳に心地よさげな、意味不明の言葉を振りまきつつ、閣議決定をして“私人”と定義した夫人と手をつないで、世界のあちこちに出かけて行く。消極的でもいいし、地球儀を下から見上げても構わないから、どうか隣の国と仲良くするよう努力してくれないか。

 韓国との関係が「戦後最悪」と言われるレベルまで悪化した理由は、「戦前・戦中の朝鮮人徴用工」の裁判である。安倍首相は、一九六五年の「日韓請求権協定」によって、従軍慰安婦や徴用工ら個人の請求権も放棄した、消滅したとして、韓国の裁判所が元徴用工の訴えを認めたことに反発し、「韓国は国と国との約束を守らない」と主張して、半導体材料の輸出規制などに踏み切った。テレビのバラエティー番組でも、“安倍応援団”のコメンテーターらが、その「約束を守らない韓国」を理由に「嫌韓」「反韓」を声高に叫んでいるそうな。

 だが、ちょっと調べてみれば、安倍首相の主張は正しくないことが分かる。安倍政権を支える官僚たちは、そのことを知らないはずがないのだ。

 一九六五年の日韓請求権協定から十四年後、一九七九年に「国際人権規約」が国会承認(批准)された。すごくざっくり言えば、個人の請求権は消滅していない、ということを定めた国際条約である。だから外務省は、一九九一年八月二十七日の参議院予算委員会で「個人の請求権自体は消滅することはない」と答弁している。国が放棄したのは、「国と国との間でやりとりをする権利について」であって、「個人の請求権自体は、国同士の協定によって消滅することはない」と外務省が認めている。すべて事実である。

 想像するに、韓国の元徴用工の賠償請求を認めてしまえば、従軍慰安婦からの請求も認めざるを得なくなる。安倍晋三という政治家の歴史修正主義をテーゼとする“お仲間”は、従軍慰安婦そのものの存在を否定する方たちである。絶対に認めるわけにはいかないのであろう。その尻馬に乗るテレビ・マスコミの、情けなさよ。
 「“桜”にかまけている場合か」と目を逸らそうとする向きもあるらしいが、かまけている場合である。民主主義の根幹に関わる問題だからだ。国民にウソを言い続ける方をいつまでも総理大臣にしておいていいのか、という問題だからである。

(工藤 稔)

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