旭川で仕事をしたことがあり、今は札幌に住んでいる友人が、わざわざ聞きに来た。十二日夜、大雪クリスタルホール音楽堂で行われた、ユネスコデザイン都市認定を記念するデザインシンポジウムである。旭川大好き、このまちの応援団の彼が、帰りのJRの中から送ってくれたメール。

 ――それにしても今日のシンポの市長と文科省の役人の挨拶、あきれ返るほどひどかったですね。あまりの空疎さに、聞いていて恥ずかしくなりました(わたしが恥ずかしがることもないのですが)。行政に頼っていてはいかん、ということを二人自ら反面教師として示してくれたのかも?

 シンポジウムの概要については、一面からつづく記事に譲る。森俊子・ハーバード大学大学院教授の基調講演の中に、ハッとさせられるエピソードがあった。「森の王国」と呼ばれるフィンランドが生んだ二十世紀を代表する建築家、アルヴァ・アールト(一八九八―一九七六)についての話である。森教授は、この建築家の弟子になりたくて、ロンドンまで出かけて行ったという逸話を紹介しながら、次のように話した。

 ――アルヴァ・アールトの建築は森の中に共存していると言われる。なぜかと言うと、この人のお父様が森林管理者でいらした。お父様と一緒にフィンランドのいろいろな森を歩いて、木の種類とか、使い方とか、どのような管理と伐採をすればいいか、よくご存知の建築家だった。(中略)セイナッツァロ・タウンホールという、一九五一年につくられた、レンガづくりの建物があります。この町役場は森の中にあってとても美しいのですが、実は三年ぐらい前に区画整理がありまして、この町がなくなっちゃったんです。それで町役場はいらないから、解体されてしまうという大変なことになって、今回と同じように学生たちを連れてフィンランドに行って、学生たちがこの町役場を再使用する案を出したわけです。残念なことに、このセイナッツァロという町は、東川町のように前向きな町長さんがいらっしゃらなかったし、積極的に町に新しい元気を出すということも出来なかったのですが、建物は何とか、今は生き延びているということなんです。(後略)

 森教授の話を少し補うと、教授はハーバードの大学院で建築を学ぶ十一人の学生を連れて来日し、このシンポジウムに合わせて九日から十四日まで、東川町に滞在して視察研修を行った。学生たちは同町や旭川の家具工場、道立林産試験場や北方建築総合研究所などを視察し、旧東海大学旭川キャンパスを訪れて跡地の利活用を考えるワークショップなどもあったそうだ。一行の滞在費は、東川町が負担した。「東川町のように前向きな町長さん」というのは、写真甲子園で全国にその名を売り、町立日本語学校を開設したり、織田憲嗣・東海大学名誉教授の世界の椅子のコレクションを引き受けたり、町の特性を活かしたまちづくりに取り組む松岡市郎町長のことである。

 森教授の講演を聞いていて、段々恥ずかしくなって、そして腹が立って来た。竣工から六十二年を経た、日本建築学会作品賞を授与された名建築をスクラップにして恥じないまちに、ユネスコ創造都市ネットワークの、しかも「デザイン都市」に名を連ねる資格はあるのかと。

(工藤 稔)

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