私は小欄で、度々、総理大臣ともあろう方に対して、偉そうな批判をしている。でも、頭の片隅では、いくらなんでも国会でウソをつくような行為はしていないだろう、諸般の事情が絡みあって、たまたまウソを言っているような情況が現出しているのだろう、そうであってほしい、と解釈したり、祈ったりしている自分がいるのを知っている。権威に弱い、優等生になりたい症候群的性格は、古希近くなっても変わらない…と。

 首相夫人が名誉園長を務める森友学園に、国有地を破格の値段で売り払った疑惑も、首相の長年の友達の学校法人に特別の便宜を図って獣医学部の新設を認めた嫌疑についても、ご本人の意図とは違うところで、忖度やら、気遣いやら、斟酌(しんしゃく)やらが複雑に交錯して、結果的に首相がウソをついているように見えた、類推された、ということもあるんじゃないの、みたいな。

 そんな私が、「なんだ、この人、テレビやラジオで全国中継されている国会で、堂々と、自らの意志でウソをつくんだ」と驚き、心底がっかりしたのは十七日の衆院予算委員会の集中審議の場である。

 野党議員が、「桜を見る会」の前日に安倍晋三後援会が主催する「前夜祭」について、過去に会場として使われたANAインターコンチネンタルホテル東京(東京都港区)に文書で質問し、その回答をメールで得たと明らかにした。これまで、安倍首相が再三繰り返してきた、ヘンテコな答弁に対する国民の素朴な疑問をホテルにぶつけ、ホテルが普通に答えている。

 当該ホテルでパーティーや宴会を開いた場合、見積書や請求明細書を主催者に発行しないケースはあったか、などの質問に、ホテル側は「ございません。主催者に対して、見積書や請求明細書を発行いたします」などと回答した。午前中の委員会で野党議員は「これまでの首相の答弁が根底から覆る」と追及した。

 首相は、「全日空ホテル側に、我々も確かめたい」と応じ、午後の予算委で、「私の事務所がホテルに確認したところ…」と質疑が再開された。「(野党議員には)あくまで一般論でお答えしたものであり、個別の案件については営業の秘密に関わるため、回答には含まれていないとのことだ」と答弁した。

 私が耳を疑ったのは、次の場面だ。野党議員の「個人・団体を問わず、貴ホテルの担当者が金額を手書きし、宛名は空欄のまま領収書を発行したケースはあったか」の質問に、ホテル側が「ございません。弊社が発行する領収書において、宛名を空欄のまま発行することはありません」と答えている。首相の答弁は、「一般的に領収書は宛名を『上様』として発行する場合があり、夕食会(前夜祭)でも上様としていた可能性はあるとのことだ」。

 この方、いつの時代の話をしているのだろう。確か、三十年か、もっと昔か、「上様」の領収書が通用した時代があった、と記憶する。だが、いま、私が3・6街で“仕事”をした証として「上様」の領収書を弊社の経理担当社員に持って帰ったら、彼女は無言で突き返すに違いない。

 念のため、旭川中税務署の署員に聞いてみた。「上様の領収書は、通用しますか?」。彼は、首相のこの答弁を知っていたと思われる。受話器の向こうの苦笑いが見えた、気がする。「上様は、通用しません。宛名が空欄も、アウトです」。

(工藤 稔)

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