コロナで影響を受けている地酒の消費拡大と酒米生産農家の支援、併せて地元の飲食店を応援しようと、旭川酒販協同組合が企画した「しあわせの地酒セット」が当初の予想を超えて人気を呼び、品切れ状態になっている。

 髙砂・男山・合同酒精・大雪地ビールの商品を各一本詰めて二千二百円(税込)、一万セット販売する。おまけとして、旭川市の「コロナ対策費」三千万円を使って、セットを扱う酒店や登録した飲食店で使えるクーポン券(二千円)が付いている。

 複数の読者から情報が寄せられた。「居酒屋とかスナックが地酒セットをまとめ買いしている。クーポン券の二千円が懐に入り、酒とビールは二百円で買ったようなものだ。一般の消費者が買おうとしても売り切れ。原資は、私たちが納めた税金なのに、おかしくないか?」

 応援しようとした側が、応援される側の“悪知恵”にしてやられる。緊急事態下の緊急施策だから、まあ目くじら立てることもないかも知れない。ただ、二千円のクーポン券を手に、入ったことのない居酒屋で、それこそ地酒と肴を楽しんで、二千円以上を消費する可能性を自ら潰してしまったと考えたら、なんだか情けない気持ちになる。まあ、それほどコロナで困窮し、追い詰められているのかなと、考えたりもするのだが。枕はここまで。

 遠い世界の話だと勘違いしそうだが、間違いなく、いずれ私たちの懐にも負の影響を及ぼすことになる。二十七日付の各紙が一面で伝えた「リニア」の話である。朝日一面トップのリードを。

 ――リニア中央新幹線の品川(東京)―名古屋間の2027年の開業が遅れる公算が大きくなった。JR東海が6月中の着手が必要としていた静岡県内の工事の準備について、川勝平太知事は26日、「認められない」と明言。環境問題をめぐって溝が埋まっていない。(引用終わり)

 ネットの世界では、「静岡県の知事が、自分の県にリニアの駅がないから“ごねている”」という趣旨のデマがあふれているらしい。全くのウソである。静岡県ばかりでなく、リニアが計画されている一都六県(神奈川、山梨、静岡、長野、岐阜、愛知)では、多くの市民団体が反対の声を上げている。

 その理由の一つは「残土」だ。リニア品川―名古屋間二百八十六㌔㍍のうちトンネル区間が八六%を占める。トンネルの掘削で排出される約五千六百八十万立方㍍、東京ドーム五十杯分(と言われてもイメージできませんけど)もの膨大な残土の処分先がまだ二割程度しか決まっていない。土砂崩れや土石流の恐れ、含まれる重金属による汚染など、運び込まれる地域の住民が反対するのは当然だろう。

 もう一つの大きな理由は、「トンネル工事による水枯れ」である。一九九七年からリニアの走行実験が行われてきた山梨県のリニア実験線(四二・八㌔)は、そのままリニア営業本線として使われる。この実験線も八割がトンネル。掘削工事が始まった一九九〇年以降、沿線の各地で地下水脈が断ち切られ、多くの川や沢の水が枯れたのだ。かつてイワナやヤマメが釣れた川が、一滴の水も流れない草むらと化した例が数えきれないほどあるという。

 リニアは静岡県の最北部・南アルプスの下を通過する。工事による環境への影響について、住民に対して具体的な予測データをほとんど示さないJR東海が唯一、トンネルの掘削で大井川の流量が最大毎秒二㌧減流するとの予測を公表した。毎秒二㌧の水は、下流の七市六十三万人分の水利権量に匹敵する。生活用水や農工業用水が枯渇することになる。戦後、発電のために幾つものダムが建設され、大井川の流量が減った苦い経験をしている自治体にとってまさしく死活問題なのだ。

 リニア中央新幹線の予定総工費は九兆円。東北新幹線は当初予定の二倍の約三兆六千億円、上越新幹線は三倍の一兆七千億円。リニアがとても予定通りの額で完成するとは思えない。そもそも、「豊さ」の定義が大きく変わろうとしているいま、品川と名古屋が四十分で結ばれることに、それほどの価値があるのか。

 ネット配信の情報誌「メディアウオッチ100」七月一日号に、毎日新聞OBの神倉力氏が「リニアってほんとに速いの」と題して書いている。以下、その要旨を。

(工藤 稔)

(全文は本紙または電子版でご覧ください。)

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