経営者の集まりなどで何度か耳にしたことのある、かのダーウィン先生の言だとされる教訓話。

 「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残ることが出来るのは、変化できる者である」

 会社経営は、社会や需要や慣習などの変化に合わせて、柔軟に変えていかなければ生き残れませんよ、という意味なのだろう。根が不器用で、おまけにへそ曲がりの私などは、「あら、そう」で聞き流したい説法の一つである。

 とはいえ、スマホ全盛、活字離れが加速度的に進行し、若い世代には「新聞ってなあに?」などと尋ねられかねない世の中である。吹けば飛ぶような地域紙に、どんな変化が求められるのか、そもそも変化できるのか、それともこのまま斜陽の坂をゆっくりと転がって行くしかないのかと、いつも頭の片隅がモヤモヤした状態にある。

 自民党の公式ホームページに、そのダーウィンの教訓を題材にした漫画が掲載されている、と知ったのは五月だったか。新聞の記事で、だったような…。

 六月二十八日付毎日新聞のコラム「時代の風」に長谷川眞理子・総合研究大学院大学長が「進化をめぐる誤謬」「価値判断は別個のもの」のタイトルで、その誤りを指摘している。コラムは、ノーベル文学賞(二〇一六年)を受賞したボブ・ディランの「風に吹かれて」の歌詞、「いったいいくつの大砲の弾が飛べば、大砲が禁止されるのだろう?」「いったいいくつの耳を持てば、人々の泣き声が聞こえるようになるのだろう?」で始まる。世の悲惨がいつまでもなくならないことに対する嘆きの歌である。

 長谷川先生は、打ち明ける。

 ――私も同じ気持ちになることがしばしばある。核兵器廃絶や飢餓の問題でもそうだが、今回は、ダーウィンの進化論に関するものだ。

 私は、このコラムを読んで初めて自民党のホームページを開き、「憲法改正ってなぁに?―身近に感じる憲法のおはなし―」と題する四コマ漫画を読んだ。漫画は、二人のカップルが「憲法改正っていわれているけど」「なんかピンときていないわね」と“モヤモヤ”している場面から始まる。そこに突然、「もやウィン」なるキャラクターが登場。やみくもに「ダーウィンの進化論ではこういわれておる」と先述の教訓話を持ち出して、「これからの日本をより発展させるために、いま憲法改正が必要と考える」と結論づける。

 長谷川先生は、嘆かれる。

 ――私は進化生物学者であり、とくにヒトの進化に関して研究している。あちこちの大学で、進化や人間行動についての講義をかれこれ30年ほどやってきた。そこでは、必ず、こういった議論の進め方は間違いだと教えてきたのに、また今回の漫画である。ああ、いったい何回話せば、こういう間違いが正されるのだろう?

 そして、長谷川先生は説く。

(工藤 稔)

(全文は本紙または電子版でご覧ください。)

●お申込みはこちらから購読お申込み

●電子版の購読は新聞オンライン.COM

ご意見・ご感想お待ちしております。