この方のウソには驚かない。そのウソを糊塗するために、役人たちが右往左往し、公文書を改ざん、破棄して、それがために自殺する国家公務員まで生みだした。今回の“政権投げ出し”もすこぶる怪しい。

 八月二十八日の会見で、安倍晋三首相は辞任を決断した理由が持病の潰瘍性大腸炎の再発だとして、おおよそ次のように説明した。

 ――六月の定期健診で、再発の兆候が見られると指摘を受けた。薬を使いながら職務に当たってきたが、先月中ごろから、体調に異変が生じ、体力を消耗する状況になった。そして八月上旬、潰瘍性大腸炎の再発が確認された。

 六月から七月にかけてと言えば、国民が「コロナ」で自粛を強いられる中で、首相が飲み食いに出歩いて許されるのかと批判された時期ではなかったか? ちょっと「首相動静」を見てみよう。

 ――六月十九日、東京・虎ノ門のホテル「アンダーズ東京」のレストラン「ザ タヴァン グリル&ラウンジ」で麻生太郎副総理兼財務大臣、菅義偉官房長官、自民党の甘利明税制調査会長と会食。

 六月二十日、永田町の「ザ・キャピトルホテル東急」のレストランで秘書官と食事。

 六月二十二日、丸の内の「パレスホテル東京」の日本料理店「和田倉」で細田博之・元自民党幹事長と食事。

 六月二十四日、赤坂の日本料理店「たい家」で二階俊博・自民党幹事長らと食事。

 七月二十一日、渋谷のフランス料理店「シェ松尾 松濤レストラン」で長谷川榮一首相補佐官、秘書官らと食事。

 七月二十二日、ステーキ店「銀座ひらやま」で二階幹事長、林幹事長代理、王貞治氏、杉良太郎氏らと会食。

 記憶に新しいのは七月三十日、丸の内の日本料理店「和田倉」で岸田文雄・自民党政調会長と会食したとの報道だ。安倍首相はステーキ、岸田政調会長は鶏の生姜焼きを注文し、ビールやウイスキーの水割りを酌み交わした、とある。

 連夜のお食事会は、潰瘍性大腸炎を再発した患者にふさわしいか?辞任会見の説明と矛盾しないか?

 病院に向かう車を報道陣に二回も追わせ、側近やお仲間に「働き過ぎ」「お休みください」の大合唱をさせた後の辞任会見である。「ひきょう者。病気を理由に使わないでよ。『丁寧に説明する』って、ウソばっかり言って。病気で同情を誘って、モリ・カケも、桜を見る会も、これでチョンにする気なのよ。亡くなった赤木さんは浮かばれないわ」。大病を経験している家人の怒りはおさまらない。枕はここまで。

 今号一面にあるように、旭川市は来年度から、「市民交通傷害保険」を廃止する方針だ。はるか昔のことだが、小学生だった子どものために加入した記憶がある。掛け金は三百円だったか、五百円だったか、とにかく「安い」と思ったのを覚えている。小さなことだが、「行政は市民のためにある」と肌で感じさせる、具体的な施策の一つだろう。

 条例が制定されて保険制度が始まったのは、一九六八年度(昭和四十三年度)。「もしや」と思い調べてみると、やはりそうだった。五十嵐広三市政の二期目である。日本で初めて、車道を歩行者に解放する「買物公園」を発想した市長。高度経済成長の時代、交通事故が激増して「交通戦争」と呼ばれるほどの状況に、五十嵐市政が「市民のために」と考えだした保険だった。

(工藤 稔)

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