十七日朝、台所で茶碗を洗いながらNHKテレビのニュースを背中で聞いていて、思わず吹き出しそうになった。前夜、第九十九代の総理大臣に選出された菅義偉首相が新内閣を発足させたというニュースである。

 菅首相は安倍政権の取り組みを継承しつつ、行政の縦割りを排除し、規制改革やデジタル化を集中的に進める方針だと解説する。そして、次のように続ける。

 ――一方、菅総理大臣は、開催の在り方をめぐり批判が出された総理大臣主催の「桜を見る会」について、来年以降の開催を中止する考えを表明し、野党側などから強く批判された前政権の課題にも取り組む姿勢を示していて、国民の理解と支持を得ながら、一連の改革を実現できるかが焦点となります。

 あのね、日本の公共放送のニュースなんだから、ちゃんと日本語を使ってほしいのよね。来年以降は「桜を見る会」を中止にすることが、どうして前政権の課題に取り組む姿勢を示したことになるんですか? ご承知のことだから詳しくは書かないが、公的な目的で、公金を使って開催する、公的な行事に、その目的を大きく逸脱して、自分の地元後援会の会員を優先的に大勢招待し、妻の友人知人や仲の良い芸能人を招いていたのですよ。

 たちが悪いのは、その招待客の名簿データについて、野党議員が質問をすると通知した約一時間後、役人がシュレッダーにかけて名簿を破棄したこと。七年八カ月に及んだ前政権を象徴する、政治の私物化、行政文書・公文書の恣意的な扱いの典型的な例である。

 NHKさん、菅・新総理が桜を見る会を中止するのは、前政権の悪事から国民の目を逸らさせるためではないですか? 官房長官として、自らも深く関わった、公職選挙法や政治資金規制法に抵触するような疑惑に触れられたくないからじゃないですか?

 前政権の支持率が、下降してもすぐに回復に転じる不可思議な現象の理由の一つに、NHKのこうした“応援”の力があったと観るのは穿ち過ぎか。

 十六日、菅総理大臣の内閣記者会の初会見は、冒頭に総理が十六分の「演説」。質疑は十五分で、事前に質問を提出させ、追質問は許さない。質問を求める記者がいても打ち切る。まさしく前政権を継承した、見事な説明責任の果たし方であった。

 さて、その首班指名選挙で、「あら?」っと思われた方はいませんでしたか。参議院は投票総数二百四十票。菅義偉百四十二票、枝野幸男七十八票、片山虎之助十六票、伊藤孝恵一票、白票三票。

 この伊藤孝恵という議員は、誰なの? インターネットで調べていると、寺田静参院議員のnoteに行き当った。昨夏の参院選で、秋田選挙区から「野党統一候補」として出馬し、当選した、ほら、例の陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」が争点となった選挙で、現職を破り「奇跡の勝利」と評された、あの女性。彼女は「本日の国会で、菅義偉総理大臣が誕生しました。県民の一人として、県出身者初の総理大臣がうまれたことを誇らしく思います」と祝意を述べた後、次のように伊藤孝恵に一票を投じた理由を書く。その要旨。

 ――初めて臨んだ首班指名。私は同年代の参議院議員、伊藤孝恵さんを指名させていただきました。

 安倍総理辞任の意向との報道、自民党総裁選、野党の合流などのニュースを見ながら、私自身が持っている問題意識、目指すべき社会の姿、国のかたちを考えながら、どなたに総理になって頂きたいのか、これからの日本をどういう方が引っ張っていくべきなのか、熟慮を重ねてきました。

 伊藤孝恵さんをご存じない方も多いと思いますので、簡単にご紹介します。

(工藤 稔)

(全文は本紙または電子版でご覧ください。)

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