「またぞろ、こいつが出て来て、格差を広げるのかよぉ」――。菅義偉・新首相の誕生とほぼ同時に「竹中平蔵」の名前が出たのを知って、ため息が出た。

 小泉純一郎政権の時代、民間から抜擢された竹中大臣は、「規制緩和」によって経済が活性化し、企業や富裕層が儲かれば、その恩恵が下々にも波及すると喧伝した。いわゆる「トリクルダウン」理論である。その結果、どうなったか?

 二〇〇四年には労働者派遣が製造業にまで拡大された。企業が自由に首を切れる非正規雇用の労働者が一気に増えた。〇八年から〇九年にかけて、リーマンショックによる大規模な「派遣切り」が行われ、東京・日比谷公園に突然ホームレスにされた労働者の緊急避難所「年越し派遣村」が出現する事態になった。その張本人が、首相になったばかりの菅総理大臣と朝飯を食ったと報じられる。

 この男、安倍晋三政権時代には国家戦略特区諮問会議のメンバーとして、加計学園の疑惑を否定する場面に登場したくらいだったと記憶する。小泉政権時代は、慶応義塾の教授だったのが、東洋大学の教授になって、しかもパソナグループなる企業の会長なんだと。自らが主導して大幅に規制を緩和した、「人材派遣」を業とする東証一部上場、資本金五十億円の大会社である。

 「人材派遣」って、もしかして「人夫出し」あるいは「人工出し」のことではないの? すなわちピンハネ業。

 東京の学生時代、学生運動が華やかなりし頃、講義がないのを良いことに、友人と二人、千葉県の道路建設現場で働いた。「親方」の指示で飯場に寝泊まりし、確か三食付きで一日千円。当時、親からの仕送りが一万五千円だったから、なかなかのアルバイトだった。その時、青森から出稼ぎに来ていたオジサンたちが僕たちの二倍以上の賃金をもらっていると知って、親方に賃上げ交渉をした記憶がある。あの親方が、今でいう人材派遣会社ということだろう?

 違法だった人夫出し業が規制緩和で正業となり、その親方が、国家戦略特区諮問会議だとか未来投資会議の委員、政権のブレーンですか。「自助・共助・公助」を掲げて、国民に自己責任を強いる菅・新総理のもとで、またまた大企業や金持ち優遇につながる「規制改革」「規制緩和」を打ち出すのだろう。そして社会の格差はさらに広がる。

(工藤 稔)

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