「日本人、おかしくなっているんじゃないですかね」――近郊町の、温泉施設を持つホテルの支配人の話である。通常は一泊八千数百円の宿泊料金が、国の「Go Toトラベルキャンペーン」と、この町独自の割引を併用すると二千数百円になるとの広告を出した。予約の電話が殺到し、町の割引分はあっという間に売り切れ。かかって来た電話に「町の割引は売り切れですが…」と説明しようとすると、プツンと電話は切れる。「Go Toトラベルだけ使っても、一泊二食と、源泉かけ流しの温泉に入れて、五千数百円ですよ。私が言うのもなんですが、有り難い話じゃないですか。それを、こちらの話も聞こうともしない」。

 この仕事と職場に誇りを持っている彼は、「うちのサービスって、その程度のものなのかって、正直むなしくなってしまいますよ」と肩を落とし、こう話すのだ。「今後、コロナが収まって観光客が普通に動き始めても、何て言うか、この一度経験した“たかり根性”は尾を引くんじゃないですかね。まともな価格では、お客は来てくれないんじゃないか、そんな恐怖があります。もちろん援助は有り難いですよ。でも、現場としては、いろいろ見えること、感じることってありますね。コロナを含めて、日本全体がおかしくなって来ているんじゃないかと感じます」。

 貧すれば鈍す、である。「カジノ」などという博打場を経済政策の柱に据えるような政権を持つ国民は、あらゆる面で格差が広がる状況の中で、“金の亡者”と堕してしまっている。我が身を省みつつ、支配人の彼と同じ、むなしさを感じる今日この頃。枕はここまで。

 七月の小欄でリニア中央新幹線を取り上げた。その稿で川勝平太・静岡県知事が、大井川の大規模な水枯れの可能性などを理由に、県内工事の準備について「認められない」と強い姿勢を取っていると書いた。リニアのバカバカしさについては置くとして、その川勝知事が「日本学術会議」の任命拒否について、「菅首相の教養のなさ」を指摘して批判され、撤回に追い込まれたと報じられている。知事の発言を具体的にみてみよう。

 「菅義偉という人物の教養のレベルが図らずも露見したということではないか。菅義偉さんは秋田に生まれ、小学校、中学校、高校を出られて、東京に行って働いて、勉強せんといかんと言うことで(大学に)通われて、学位を取られた。その後、政治の道に入っていかれて。しかも時間を無駄にしないように、なるべく有権者と多くお目にかかっておられると。言い換えると、学問された人ではない。単位を取るために大学を出られた」

 「もし今度六人が落とされるのであれば、学問がなっていないということであれば、もっともな理由。それ以外の理由は、よほど法律に違反していない限り、そうしたもの(政治的発言)は言うに任せるということであり、信教の自由、学問の自由、言論の自由というのは基本中の基本で。そこに権力が介入して、権力の言う人たちだけになったら、御用学者ばかりじゃないですか。そんな人は学者じゃないです。まさに日本の学問立国に泥を塗るようなことではなかったかと、非常に心配しております。汚点です。なるべく汚点は早く拭った方がいいと思っている」

 しごく真っ当な発言。この正論に対して、静岡県庁に三日間で二百十五件の抗議の電話やメールが届いたそうだ。その内容は「学歴を出して教養がないと言うのは差別だ」など。トンチンカンな抗議ではないか。知事は学歴を取り上げているのではない。せっかく大学に通ったのに教養を身に付ける努力をした形跡がない、と言っている。政治家に学歴は必要ないが、教養は不可欠だ。無教養。私の国の総理大臣として恥ずかしいと思う。例えば――。

(工藤 稔)

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