「説明できることとできないことってあるんじゃないでしょうか」

 キャスターを睨みつける菅義偉総理に、現場のスタッフは息を呑んだ。

 「週刊現代」十一月十四・二十一日合併号の記事の書き出しである。以下、少し引用しよう。

 ――国会開会の当日、10月26日夜のNHK『ニュースウオッチ9』に菅総理が生出演。終り際、日本学術会議任命問題について何度も質問され、露骨に不愉快そうな表情を浮かべた一幕である。

 その翌日、報道局に一本の電話がかかってきた。「総理、怒っていますよ」「あんなに突っ込むなんて、事前の打ち合わせと違う。どうかと思います」

 電話の主は、山田真貴子内閣広報官。お叱りを受けたのは、官邸との「窓口役」と言われる原聖樹政治部長だったという。「この件は理事の間でも問題となり、局内は騒然となりました。総理が国会初日に生出演するだけでも十分異例。そのうえ内容にまで堂々と口を出すとは、安倍総理のときより強烈です」(NHK幹部職員)

(後略)

 『ニュースウオッチ9』の有馬嘉男キャスターと菅総理のやり取りをもう少し見てみよう。

 生出演の終盤、有馬キャスターは首相が所信表明でひと言も触れなかった日本学術会議の任命拒否問題を取り上げた。首相は、例によって「総合的・俯瞰的」「民間出身者や若手研究者、地方の会員も選任される多様性が大事」などと答える。

 有馬キャスターは「総理は国民がおかしいと思うものは見直していくんだということを就任前からおっしゃっていたと思います。で、この学術会議の問題については、いまの総合的・俯瞰的、そして未来的に考えていくっていうのが、どうもわからない、理解できないと国民は言っているわけですね。それについては、もう少し分かりやすい言葉で、総理自身、説明される必要があるんじゃないですか?」と食い下がった。

 首相は「私が任命する百五人について、学術会議が選考して持ってきちゃうんです。それを追認するだけなんです」などと支離滅裂な答え。

 すると有馬キャスターは近頃のNHKでは珍しく次のように突っ込んだ。

 「あの、多くの人がその総理の考え方を支持されるんだと思うんです。ただ、前例に捉われない、その現状を改革していくというときには大きなギャップがあるわけですから、そこは説明がほしいという国民の声もあるようには思うのですが」

 ここで、総理がキレて、冒頭の「説明できることと…」が飛び出すわけだ。発言は「百五人の人を学術会議が推薦してきたのを政府がいま追認しろと言われているわけですから。そうですよね?」と続く。

 「多くの人がその総理の考え方を支持されるんだと思うんです」と及び腰ながら、執拗に質問を続けた有馬キャスターに敬意を表する。結果として、首相から「説明できないことをしたのだ」という本音を引き出したのだから。

 そもそも、キャスターや記者の質問に「キレる」という態度を露骨に表わすなんて、民主主義を標榜する国の宰相として不適格と言わざるを得ない。報道者は、国民の代わりに質問している。記者の後ろには国民がいるのだ。まして翌日、役人が露骨な恫喝の電話をかけてくるなんて、菅総理は独裁者なのか? “スガーリン”か? 私たちの国は、いつから報道の自由が制限される強権国家になったんだ?

(工藤 稔)

(全文は本紙または電子版でご覧ください。)

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