この男は、自民党総裁の立場にある二〇一二年、日本国憲法を「みっともない憲法ですよ、はっきり言って」とこき下ろした。男は二〇二〇年十二月、国会で自らの後援会が主催する「桜を見る会」の前夜祭について、百十八回のウソの答弁をしたと認めた。

 例えば、「後援会としての収入、支出は一切ないことから、政治資金収支報告書への記載は必要ない」「事務所が(差額を)補填(ほてん)した事実も全くない」との答弁は、真っ赤なウソであった。「秘書の報告を信じて答弁した」「結果として事実に反するものがあった」とウソの上塗りをして、逃げた。

 その安倍晋三・前首相が極右の月刊誌『Hanada』八月号に掲載された櫻井よしこ氏との対談で、櫻井氏が「菅政権を引きずりおろすために五輪を政治利用している、と言わざるを得ません」と発言すると、次のように答える。

 「極めて政治的な意図を感じざるを得ませんね。彼らは、日本でオリンピックが成功することに不快感を持っているのではないか。共産党に代表されるように、歴史認識などにおいても一部から反日的ではないかと批判されている人たちが、今回の開催に強く反対しています。朝日新聞なども明確に反対を表明しました」

 公党である共産党や日本を代表する報道機関の朝日新聞を名指しで「反日的」だと批判する。この「反日的」という言葉の意味と用法は、戦前・戦中の「非国民」とほぼ同じだ。元総理ともあろう者が、匿名で、読むに堪えない罵詈雑言を垂れ流すネトウヨと同次元の話をする。こちらが恥ずかしくなる。

 東京都議選の結果でも明らかなように、五輪の開催が新型コロナウイルスの蔓延を助長し、都民・国民の命を危険に陥れかねない、世界に感染をさらに拡散させるのではないか、と国民の六割、七割が危惧している。閑古鳥が鳴く店のカウンターで、「この状況でオリンピックを楽しむ気分には、とてもなれないよ。誰のためのオリンピックなのかね」と嘆く、三・六街の居酒屋のマスターも「反日的」だというのかね。

 国会で少なくても百十八回ものウソをつき、つまりは国民を愚弄し続けた、この男を三度(みたび)、首相に担ごうという動きがあると伝わる。対談相手の櫻井氏もその一人なのだろう。彼女は、「美しい日本の憲法をつくる国民の会」なる団体の共同代表だそうな。いつも思う、「美しい」は、「日本」にかかるのか、それとも「憲法」を修飾するのか、さっぱり分からん。どうでもいいけど。どうも、この“六十六歳児”のことを書くと力が入って長くなる。申し訳ない。枕はここまで。

(工藤 稔)

(全文は本紙または電子版でご覧ください。)

●お申込みはこちらから購読お申込み

●電子版の購読は新聞オンライン.COM

ご意見・ご感想お待ちしております。