新米が出回り始めた。猛暑、少雨の夏を過ごしたコメの味はどうだろう。友人の農家は、「味はどうか分からないが、量はとれた」と言いながら、コロナ禍で外食で消費されるコメの量が減って値段が下がり、一俵(六十㌔)当たり二千円も安くなったと嘆く。

 郊外を車で走ると、水田の大型化工事が行われている現場をあちこちで見る。いわゆる「土地改良事業」である。二〇〇九年に民主党が政権に就いたとき、土地改良の予算をバッサリ削り、農産物の輸入自由化に備えるための農家個別補償制度を創設したのを思い出す。自民党が復権した後、いつの間にか昔に戻ってしまった。

 向こうの畔が見えないほどの大きな水田が造られている。作業効率が上がり二〇%のコスト削減が図られるそうだ。だが、と考える。人口はどんどん減る。コメを好んで食べる世代は次々にあの世へ旅立つ。若いモンは、パスタやパンを食って、コメなんか見向きもしない。あのTPPが発効すると海外の安価な農産物がじゃんじゃん入って来る。コメの価格も相対して下落するに違いない。

 大型重機が三台も四台も動き回り、パイプやら、新しい土やらが積まれている。あの工事代金は、すべて私たちがヒーヒー言いながら納めた税金だ。その血税は土木建設業者に流れ、水田の大型化に伴う農機具の買い替えにまた補助金が使われる。農業予算として地方にばら撒かれた金は、そうやって還流して一部は政治家の懐に入る…。

 稲刈りが終わった、巨大な田んぼの風景を眺めながら、私たちの国の、社会の、明るくない未来を想像して、暗たんたる気持ちになる。枕はここまでだけど、続きのような。

 本当に、どこまで国民をバカにすればいいのか、と思う。四日、就任したばかりの岸田文雄首相は、記者会見で十四日に衆院を解散し、総選挙を十九日公示、三十一日投開票にすると表明した。予算委員会での論議はなし。投開票日まで一カ月もない。ネコだましのように、国民が目をパチクリしているうちに、選挙をやってしまおうというわけだ。

 前号でも触れたが、選挙を差配する甘利明幹事長はいうに及ばず、大臣、副大臣には“すねに傷”を二つも三つも持っている面々がぞろぞろだ。報道によれば、自民党の選対関係者は日程を早めた理由について「新内閣や党執行部のボロやあらが出る前にやってしまうということ」と解説したそうだ。入閣議員の“身体検査”の甘さで、今後の週刊誌報道などで暴かれる可能性がある“ボロ”の被害を最小限にとどめる狙いが見え見えだ。

 新内閣が発足した直後は、総じて支持率が高い。いわゆる“ご祝儀相場”を期待するのと同時に、野党に候補一本化の時間を与えずに、とにかくドサクサに紛れてやっちゃおう、ということだ。

(工藤 稔)

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