今年に入って、二週間勝てずにいた。「今週こそ勝ちを焦らないように」。三週目の競馬を前に、丸ちゃんは口にした。

 待望の今年初勝利は一月十七日(土)に訪れた。中京競馬第4R、ブライティアピア号に騎乗した丸ちゃんは、スタートも良く、スムーズなレース振りで快勝。「ホッとしましたね、かなり」。騎乗数が昨年の同時期とは比べものにならないくらい増えたし、レベルが高いと言われる関西の厩舎からの騎乗依頼も多い。「胃が痛いですよ」と毎週のように言っていた丸ちゃん。“かなり”という言葉に力がこもっていたところをみると、相当プレッシャーがかかっていたに違いない。一つ勝って調子が出たのか、第9Rのケープタウンシチー号でも、見事トップでゴール板を駆け抜ける。この日は十戦して二勝二着二回。ようやくエンジンがかかってきた様子。

 続く十八日(日)は京都競馬場に遠征。デビューした年の五月に、京都競馬場で乗る機会があった。しかも一鞍だけ。「施設とかは覚えてましたけど、コースはほとんど記憶になかったです」。実質、初めてと言っていい。「丸ちゃんは初物に弱い」というイメージが私にはあったので、京都で勝ち星をあげるのは難しいかもなと勝手に考えていた。ところが、この日最初の騎乗となった第3R。丸ちゃん騎乗のボーカリスト号は、スタートを決めて、二番手からレースを進め、そのまま第四コーナーを回っても脚色は鈍らず、外から来た馬に一旦は並びかけられたが、そこからもうひと伸びして、二着馬に一馬身半の差をつけてゴールイン。十六頭中、十番人気での鮮やかな勝利となった。「スムーズに運びましたね。先行したレースでうまくいったケースは少ないんですけど…新しい何かをつかんだ感じがします」と振り返った。「丸ちゃんは初物に弱い」、私の辞書からこの言葉は消えた。

 第9Rの紅梅ステークスが、この日、最後の鞍。今回の京都遠征は、このレースに出走するタガノボヘミアン号への騎乗依頼があって実現したものだったが、残念ながらしんがりでのゴール。「積極的に競馬ができれば良かったのですが」と反省も口にしていたが、五戦して一着一回三着一回と、初めてに近い京都競馬場での成果としては上々と言っていい。

 京都競馬場での騎乗を終えた丸ちゃんの目の前では、同期の荻野琢真騎手がテイエムプリキュア号で逃走劇を演じ、見事に日経新春杯に優勝。重賞初勝利をあげた。「そりゃ悔しいですよ。でも重賞をポコッと勝っても、その後リズムが良くなる保証はないですしね。重賞に勝てるような馬に乗せてもらえるだけの技術を、しっかり身につけた上で勝ちたいですね」。段階を追って成長してきた丸ちゃんらしい答えを聞いて、こちらもなぜかホッとする。

 「本当は僕がおごる番だったけど、荻野が重賞を勝ちましたからね。しゃぶしゃぶとか肉のコースをごちそうになりました」と、最後はニヤリ? 京都遠征は、いろいろな面で丸ちゃんにとって、プラスになったようだ。

初勝利後の美浦トレセンにて。心なしか余裕の表情!?