騎手免許取得から三年未満で通算勝利数が百回以下の騎手は、「見習い騎手」と呼ばれている。丸ちゃんは、この三月でデビューして三年目に入った。現段階(三月二十二日現在)での通算勝利数は四十二なので、まだ見習い騎手だ。

 見習いはベテランに比べれば騎乗技術が見劣るのは当然だし、同一条件でレースをすれば圧倒的に不利だ。そこで考え出されたのが、「減量制度」。見習い期間内の通算勝利数によって、負担重量が決められている。三十勝以下は、一般の騎手よりも三キロ軽く乗れる。三十一勝以上、五十勝以下が二キロ減。五十一勝以上、百勝以下が一キロ減。一キロ負担重量が軽いと一馬身は違うと言われていて、三キロ軽いと三馬身差がつくという計算になるから、重賞や特別競走、ハンデキャップ競走では適用されないものの、それ以外の競走での見習い騎手の需要はかなり高い。丸ちゃんも十二レース中、十~十一レース騎乗という日もざらにある。関東所属だが、関西からの依頼も多く、今や人気騎手の一人となっている。

 その代わり減量の特典がなくなった途端に、騎乗依頼がガクッと減る騎手も多い。今年の二月で見習い期間を終了した某騎手は「去年までは騎乗依頼を断るのが大変だったのに、減量が切れて騎乗数が激減した最初の週は笑うことができませんでした」とシビアな現状を語ってくれた。丸ちゃんは、現在二キロ減で騎乗している。そして来年の二月一杯で減量の特典がなくなる。まさにこの一年の成績が、その後の騎手人生を左右すると言っても過言ではない。

 実際に軽い斤量で騎乗している違いを実感することはあるのだろうか。「自分が乗った時はスタートダッシュが良かったのに、同じ馬に減量じゃない人が乗った時は、押していっているのになかなか前に進んでいかなかったんですよ。その時は違いを感じましたね」と丸ちゃん。また、昨年十二月に、三キロ減から二キロ減となったわけだが「違いといえば、三キロ減は▲で、二キロ減は△という記号がつくので、出馬表で目立たなくなったなあというくらいですかね」と、負担重量が一キロ重くなった影響がレースに出ているという実感はなかったようだ。

 よく競馬雑誌の短評には「減量騎手起用も効を奏した」などと書いてあるが、「今日は軽くて走りやすかったです」と馬がコメントしてくれているわけではないし、斤量の差がレースに出たかどうかは、実際のところ誰にもわからないような気もする。

 丸ちゃんも、負担重量が一キロ減になる日も近い。「三キロから二キロに変わっても、さほど成績にも影響はないけど、一キロ減になると厳しくなる騎手が多い」と、以前ある競馬記者から聞いたことがある。しかし、通常の負担重量とあまり差のない一キロ減で実績を残しておけば、見習い期間が終わっても、さほどダメージは受けないはず。今後の奮起に期待しよう。(隔週に掲載します)

騎手の名前の上に▲(3キロ減)、△(2キロ減)、☆(1キロ減)の記号がついている。この表では、宮崎北斗、丸田恭介、藤岡康太の3名。ただし牝馬はもともと牡馬よりも2キロ負担重量が軽いため、牝馬に騎乗の丸ちゃんの重量は53キロとなっている