雪がドッと積もったり、その雪を解かしてしまう雨が降ったり。せっかく「四カ月の辛抱だ」とくくった腹が、軟化してしまいそうな、そんな師走の始まり。新年号の準備で駆け回る街に、威勢のいい話はあまりない。読者の皆様のテンションを下げるようで申しわけないが、まっ、現実を見つめるという意味で。

灯油やプロパンを商っている友人の話。「油の値段が下がり始めて、ちょっとホッとしていたんだけど…。もう何年も灯油を買ってくれていて、一度も支払いが滞ったことなんかないお客さんが、『待ってくれ』と言う。聞いてみれば、ご主人がリストラで職を失ったそうだ。しかも、同じような例が一軒や二軒じゃない。長年の付き合いだから、払わなきゃ灯油やプロパンを配達しませんって断るのも、何だかねぇ…。このところ、売るよりも、回収の方に気を遣わなきゃならない、そんな状況でさ。こんなの初めての経験だ」。

もう一つ、鉄砲をやっている知人の話を。趣味と実益を兼ねて、時季になるとシカを撃っている。いわゆる「ジビエ」、狩猟によって捕獲された野生の鳥獣料理の食材として、一頭一万八千円ほどで売れるのだという。昨シーズンまでは、仲買人が「何頭でも持って来い」と言うほど、主に首都圏の高級レストラン向けに、ここ十年ほどは右肩上がりで需要が伸びていたそうな。彼も、一日に四頭、五頭と撃って、解体し、売りさばいた。

「結構いい商売になるんだ。いつもの年は、クリスマス前までがピークで、その後はあまり売れなかったのだが、去年は、年明けまで需要があった。景気が良かったということだよね。ところが、今年は全くダメ。撃っても、売れない。高級料理店からの注文が急激に減ったという話だ。東京の不況は報道されているレベルを遥かに超えていると思うな」と彼。「米国発の金融不安が、オレたちの猟にまで影響するなんて、考えもしなかった」と苦笑いする。

あぶく銭を懐に、したり顔でジビエ料理を口にする大都会のセレブの行く末などどうでも良いが、厳冬を前に職を失って灯油を買う金にも窮する状況が、拡大するのを恐れる。中小企業の経営者の話を聞くと、米国のサブプライムローンの破綻をきっかけに、突如として起こった世界的な不況は、どうも、私たちがこれまで経験した、いわゆる「不景気」とは、次元が違うもののようだ。一人一万二千円だか二万円だか、総額二兆円の金をばらまけば内需が拡大して、景気が上向くだろうなんて、そんなマヌケな短絡的政策が通じるような生ぬるいレベルじゃないことだけは確かだろう。

中小零細企業の末端に連なる弊社としても、この年末年始を乗り切れるかどうか、いや、真面目な話。忙しく走り回る社員たちの姿を眺めつつ、そろそろ年末手当の算段を始めなきゃ…。いささか暗くなってしまった枕は、ここまでにして。

十一月二十二日付「赤旗」は、「北海道サンルダム建設 専門家委員 受注側から半数選任」の見出しで次のように報じた。

「北海道下川町でのサンルダム建設計画(事業費五百二十八億円)に伴い、開発局が設置した天塩川魚類環境保全に関する専門家会議の委員八人のうち、半数が事業者である開発局から受注している企業や公益法人から選任されている実態が、二十一日までに国土交通省の資料で明らかになりました」。記事によれば――

ダム建設の環境対策を検討する目的で開発局が設置した天塩川魚類生息環境保全専門家会議(座長・辻井達一北海道環境財団理事長)の八人の委員のうちの二人は、道所管の社団法人「北海道栽培漁業振興公社」の技術顧問を務めており、同公社は、二〇〇二年度から〇七年度まで「魚類生息調査」など開発局のダム建設に伴う事業(合計二十一億円)を随意契約で受注。毎年の事業収入の四割は開発局からの受注が占めている。

さらに、〇七年から〇八年度に合計十八件、約一億三千万円を受注している企業の社長も委員に選任されている。

また、〇三年から〇六年まで、天塩川水系河川整備計画について議論した天塩川流域委員会の場で、一貫してダム建設の方向へリードした委員長と副委員長ら大学教授・助教授三人には、開発局から多年にわたる委託研究、共同研究の契約があることも、国交省の資料から明らかになった。委員長個人とそのグループに総額二千四百九十万円、副委員長には毎年百三十万円が支払われている――。

八月、開発局は〇九年度の概算要求で、サンルダムの本体工事費を含め二十三億七千万円を計上していると報じられた。地元住民や道内の環境保護団体、天塩川河口の漁協などが、治水に対する効果、サクラマスやカワシンジュガイの絶滅危惧、漁業資源への甚大な被害などの理由から、ダム建設反対の声をあげている最中、“御用研究者”が多数を占めているとは言え「専門家会議」の議論が進められている途中での概算要求である。

九月、北海道自然保護協会(会長・佐藤謙北海学園大学教授)は開発局に対して、本体工事着工のための概算要求を撤回するよう求める要望書を提出、十一月に回答が届いたが、その内容が不十分だとして、再度、開発局と専門家会議に要望書を突き付けた。開発局との話し合いの場を設けること、魚類専門家会議との懇談会を開くこと、これら当然の要求に開発局は誠実に応えるべきだ。公開の場で、徹底的に、科学的に、議論すればいい。

ダム建設予定地では、環境省のレッドリスト最上位、絶滅危惧I類のコガタカワシンジュガイ、II類のカワシンジュガイが確認されている。これらのカワシンジュガイにとって、サクラマスの溯上が生息の絶対条件となる。もとより、死に絶えた生物は復元不可能だ。洪水多発地帯というわけでもないこの地域で、ダムの建設を急ぐ理由はないではないか。

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