ここまで叩かれると、いささか可哀想になる。「福田じゃ選挙は戦えない」と言って、前首相に政権を投げ出させた上で、「明るい」「国民的人気がある」という理由で、選挙の顔として麻生新総理を選んだのは、たった二カ月余り前じゃないか。そのお先棒を担いだ方々は、知っていたんでしょう? 高校入試に出るような漢字が読めない、座右の書はゴルゴ13、遠山の金さん流のべらんめぇの物言いが庶民的だと勘違いなされている、そんなヒトであるということは。

党の総裁選挙でお祭り騒ぎを演出し、その騒動の熱が冷めないうちに猫騙し的戦法で総選挙を戦えば、明るく、庶民的な麻生の人気にほだされて、自・公与党が過半数割れすることはあるまい、と。なめていたのね、選挙民を。そんな程度だと、高をくくっていたのね。

この期に及んで、「麻生じゃ選挙を戦えない」なんて大合唱されたってねぇ。二度あることは何とやら。大失業時代到来の予兆著しい年の瀬、得意のべらんめぇも封印せざるを得なくなっちゃった麻生総理、窮鼠猫を噛むの心境で「そんなことオレ知らねぇよ」と啖呵を切って、またまた政権を投げ出しかねない雰囲気を醸し出していますけど。

その大失業時代の到来について。非正社員の首切りが、正社員にまで及びそうだと報じられている。「アルバイト」や「パート」という呼称に加え、「非正社員」なる言葉が、当たり前に飛び交うようになったのは、〇一年(平成十三年)、小泉内閣がいわゆる骨太の方針で、「労働分野の規制緩和やIT産業による雇用創出」を打ち出し、「五年間で五百三十万人の雇用創出」を唱えたことによる。以後、それまでは限られた分野に認められていた派遣労働が解禁となり、製造業などで急増することになる。

派遣社員を「雇用の調整弁」と呼ぶのだそうな。何て非人道的な表現だろう。人材派遣会社に籍を置く派遣社員は、いわばレンタル。建設現場で使われる、ブルドーザーやユンボやクレーン車と同じ。仕事がある時だけ、お金を払って借りる。必要がなくなれば、当然、お払い箱だ。契約解除なんて聞こえは良いが、使い捨て、首切り。そのヒトの能力や人格、生活は一切考慮する必要はナシ。企業にとって、極めて都合のよい雇用形態だ。いま、米国発の世界同時不況のあおりを食って、日本の大企業が軒並み派遣社員を切る方針を打ち出したのは、この雇用形態が認められている意味から言えば、当然の帰結だろう。そのための「雇用の調整弁」なのだから。

旭川に本社を置く製造業の経営者の話を思い出す。「売れに売れている時が、危ない。そんな状況は、いつか、それほど遠くない将来、必ず終わる。だから、いくら景気が良い時でも、一二〇%の仕事をしてはダメなんですよ。製造能力の八割。会社を続けるためには、もちろん、せっかくの有能な社員を雇用し続けるという意味も含めて、それ以上の無理な仕事をしちゃだめですよ。欲が出ます。儲けられる時に、目一杯儲けなくちゃという欲。それに負けたらだめなんです。悪くなった時に、取り返しがつかないことになってしまいますから」。

一つは、企業内の利益配分が、「グローバル経済」なる幻影によって狂ってしまったのではないか、ということだ。米政府に救援をお願いに来た大車メーカーの経営者たちが、自家用ジェット機を使ったという話が笑い話として伝わる。バブル経済華やかなりし頃、自家用飛行機を所有した成金企業は、その後のバブル崩壊と同時に、ことごとくブッ潰れたではないか。

アメ車の燃費と、小型ジェット機のそれと、どちらが勝っているか、そんなことはどうでもいいし、ビッグ3と称されるそれらの巨大企業の経営者の年収が何十億円なのか、それも知りたいとは思わない。だが、いかな資本主義と言えども、おのずと人間としての「分」というものがあるはずではないか。海外に進出しようがしまいが、日本に本拠を置く企業、そして、その企業に籍を置く者は、血脈として「分」の何たるかを知っているはずだ。経済帝国・米国が掲げる「グローバル経済」の元の米国流経営と、一線を画す「日本型経営」に立ち戻る、それがまともな雇用を守り、企業を持続させる早道だと思えてならない。

頑張れば、誰でも大統領にのし上がることができる「アメリカンドリーム」は、あくまで米国の話なのだ。日本には究極の「ジャパニーズドリーム」なんてない。どう足掻いたって、天皇陛下にはなれないのよ、残念ながら。島国の、小国の、エネルギー資源貧困国の、その日本人には、日本企業には、慎ましさ、謙虚さ、つまり「分をわきまえる」という生き方があっていい、そう思う。

何やら、世の中、不穏な空気が漂いはじめている師走。追い詰められている麻生首相が起死回生の一手を打つとすれば、先に書いた「可哀想」感をアピールすることではないか。与党内イジメに、べらんめぇ調で泣いたりすれば、情に弱い我が国民のこと、意外に投票行動に反映するかも知れない、いやマジで。

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