私が加わる家族の間の会話に「芸能界」の話題がのぼることはほとんどないのだが、今回の事件に限っては、家人と娘が連合を組んで言い募る。「ねぇ、公園で裸になったら、誰でも、草彅さんでなくても家宅捜索されるの?」、「最低の人間を、最低の行為って言い換えたって、同じことじゃない。あんな人に、そんなことを言われる筋合いはないと思わない?」。「SМAP」って名前、知らないわけじゃないけれど、そのメンバーが公然わいせつ罪容疑で逮捕されたことに対して、女房と娘が怒りを爆発させるほど、そんなに入れ込ませる存在だとは、お父さんは知らなかったわけでして。

だから、自分の無知を棚に上げて「総務大臣は、かんぽの宿の時と同じように、自分の点数を稼げると思って、そのクサナギって人が、それほど国民的支持を受けてることも知らずにした、得意のスタンドプレーなんじゃないの」と答え、「タクシーに乗車拒否されるほど人事不省に陥っていたらしいし、それに芸能人だから、覚せい剤使用の疑いもあるってことで、サツ(警察)はガサ(家宅捜索)入れたんじゃないの? まっ、普通は、ないと思うけど…」なんて、一応、業界用語を使ったりして、怒れる二人を煙に巻こうとしたんです。

翌日、さる会合でお会いした、工房を営んでおられて、時折、社会派的な発言や行動もなされる、立派な四十代の社会人が、やにわに「最低の人間だと発言したあの大臣、どう思います?」と、前日のわが家の怒れる二人と同じテンションで話されるのには少々驚いた。彼いわく、「イタリアくんだりまで大金使って行って、居眠り会見したり、美術館で狼藉を働いたりした、あの北海道出身の大臣の方がよっぽど最低じゃない。あの恥さらしには何も言わないで、酔っ払って公園で裸になっただけで、誰にも迷惑かけてない人を最低の人間だなんて、自分こそ最低だよ、そう思いません?」と真剣に怒る。そして「石原知事、好きじゃないけどさ、『裸になりたい気持ち、分からないでもないな、オレは…』という言葉、まともだよ。大阪の橋下知事も。今回の事件では、政治に関心がなかった若者世代が、大臣とか、政権とか、自民党だとかの、本質的なレベルの低さを嗅ぎ取ったと思うな。大きな意味で、政治の潮目を変えたと思うよ」と続けた。

彼の話を聞きながら、インターネットなる便利な道具が出現し拡大して以来、触れ得ない、目に見えない、仮想世界の中で、匿名同士の言葉のやり取りが溢れ返っているけれど、こうして対面する実物のヒトに向かって怒りや失望を吐露する場面って、そう言えば、めっきり少なくなっているんじゃないか、そう思い至った。

為政者やその体制に対しても、バーチャルな世界では、ヤジったり、ちゃかしたり、不満を並べ立てたりするけれど、すべて匿名、言葉だけ。デモ行進なぞ、メーデーやある種の記念日に、おしとやかに、しずしずと、行儀正しく行われる、その程度。決して、違法なジグザグデモなどを推奨するつもりはないけれど、もうちょっと怒りを等身大に表現するスタイルがあってもいいのではないの、韓国やタイの民衆のデモの光景をニュースで知るにつけ「日本人は、いつ頃から飼い慣らされちゃったのかな」、日ごろ感じているそんな思いを少しだけ緩和してくれる、怒れる若い世代のオトコとの対話だった。当初の予定に反し、妙に長くなってしまった枕はここまで。

あいにくの天気に災いされたが、二十五、二十六日の二日間、春の野草・カタクリを話のタネに、全国から人が集まるイベントに参加した。比布町との堺にある突哨山にゴルフ場の建設計画が持ち上がったのを機にスタートした「カタクリフォーラム」。今年は、全国各地のカタクリの里で持ち回りで開かれている「カタクリサミット」との同時開催となった。大阪や京都、岩手、そして道内から延べ三百人が集まり、フォーラムで学び、交流会で語り合い、花のピークには少々早かったが、新緑前の雑木林に咲く野の花のお花見を楽しんだ。

二十年前、市民が「普通の自然を守ろう」と声を挙げ、行動しなければ、この日本有数のカタクリとエゾエンゴサクの大群落は消滅していただろう。バブル経済の崩壊という時代背景の後押しはあったにしても、法的な手続きが遺漏なく進んでいたゴルフ場造成の爪跡は、浅からぬ形で残ったに違いない。

旭川で暮らす私達にとって「たかがカタクリ」を愛でるために、本州くんだりからツアーを組んではせ参じる人たちの姿を眺めつつ、「大いなる無駄」と断じていいだろうダム建設でダム湖に沈む危機に直面している、下川町を流れる清流、サンル川のことを思った――。

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