選挙前、出勤途中のカーラジオで民主党の政見放送を聴いた。1区から12区までの小選挙区の候補者が、短いフレーズで有権者にアピールし、それに応えて有権者が候補者への要望を、これまた短い言葉で明るく述べる、という仕立て。旭川を含む上川管内、第6選挙区の候補で、当選した佐々木隆博氏は、こう言った。「地球環境の問題で、世界をリードします」。その彼に対して有権者に仕立てられた女性が要望したのは、「豊かな緑を残すために頑張ってください」――。

民主党のマニフェストの根幹の一つは、「税金のムダ遣いを徹底的に洗いなおす」、そして「官僚の官僚のための政治を変える」だった。前週も書いたが、道北地域で進められている大型公共事業の象徴であるサンルダムは、無駄な公共事業の最たるものだと、本紙は繰り返し主張してきた。流域で暮らす住民の多くは、ダムによる治水を望んではいないことは、事業主体の開発建設部が行ったアンケートでも明らかだ。だが、お役人は巧妙で、狡猾だ。組織と予算を死守するためには、ウソ、でっち上げ、サクラ、ダンマリ、情報隠し…、何でもありのやりたい放題。地方議会のチェックを受けない国の出先機関が、巨大な予算を持ち、港湾や空港、川、ダム、農地、道路…、地方の声に応えるという金科玉条をかざして、市町村のお役人を見下げつつ、組織と予算を維持するために「仕事」をつくり、こなす。

その典型がサンルダムにほかならない。ダムの是非を含む整備計画を検討する流域委員会がスタートした時点で、すでに計画地周辺ではダム建設を前提とした道路の付け替え工事や橋の建設が着々と進む。「ここまでお金を投じてしまったのだから、中止すればムダになる」と言わんばかりに既成事実を積み上げる。走り出したら止まらない、止められない常套手段。開発局が持つ巨大な予算の恩恵に与っている自治体の首長や建設業界、商工・農業団体などに働きかけ、「早くダムをつくって、私たちを安心させてください」などと、茶番劇丸出しの要望を臆面もなく演出したりもする。自ら行った流域住民を対象にしたアンケートでは、「治水のためにはダムを」とこたえたのはわずか七%に過ぎないのに、いざ事業が動き始めると、開発から垂れ流される住民の声は、あたかも大半がダムを望んでいるような雰囲気を醸しだす。

革命的大勝を果たした民主党の議員の皆さん、そして特に6区で圧勝した佐々木隆博氏に約束していただく。政見放送で述べた「地球環境の問題で、世界をリードする」「豊かな緑を残すために頑張る」は、その通り実行することを。

佐々木氏の出身は士別市。サンル川の本流、天塩川の流域にある。「地球環境」どころか、足元の環境、自然の問題に対してどのようなスタンスで望まれるのか、私たち有権者は注視している。当初予算五百三十億円を投じてサンルダムが完成すれば、サクラマスが溯上し、その稚魚ヤマメが「湧く」とたとえられる、道北有数の清流サンル川のみならず、湛水面積三・八平方キロメートルのダム湖の下に、農地や森やそこに棲む生き物すべてが沈む。

地元選出の民主党の代議士として、お役人の組織を守り、ムダな税金を投じて、かけがえのない自然をぶち壊すのか、それとも、民主党のマニフェストにある通りダム建設計画を一時凍結して、科学的、客観的にダムの是非を再検討するのか。有権者は、長くつづく閉塞感、絶望感、虚脱感を拭い去れるかもしれないというかすかな希望にかけて、民主党に政権をあずける選択をした。高速道路の無料化、ガソリンの暫定税率廃止、月額二万六千円の子ども手当て、農家への戸別所得補償…、もしかすると目先のお手当てに有権者の心が動いた面もあるのだろうが、その先にある社会や地域について、私たちは具体的な像を求めている。繰り返しになるが、役人組織と税金と公共事業のあり方と、そして地域の貴重な自然や住民の暮らしと、サンルダムの今後の行方は政治と庶民の関係をつぶさにあぶり出す、象徴的な事例だと言っていい。

独裁国家でもあるまいし、一つの党が半世紀以上も政権の座に在り続ける方が異常な事態だったと考えるべきだろう。間もなく総理大臣になられる鳩山代表は、選挙期間中、「約束を守れなかったら、鉄槌をくだしていただく」と断言した。私たちは、初めて、自分たちが選んだ新政権のもとで、その政治を経験することになる。さまざまな混乱や混迷、逆戻りもあるだろう。ただ、約束した大きな方向、官僚による官僚のための政治からの脱却、それがぶれたら、四年待たずに鉄槌だ――。

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