家具メーカー、カンディハウスの長原實会長の話を聞く機会があった。中小企業家同友会旭川支部の勉強会の一つ、軽くアルコールを入れて先達の真髄の一端に触れさせていただこうという「焼鳥金曜大学」での話である。「――脱炭素社会とグローバル経済の狭間で 21世紀に生き残るための変革を考える」という、少々硬い演題でお話しいただいたのだが、まさに、目から鱗の感を深くした。

 来年、七十五歳になられる氏は、六八年(昭和四十三年)に会社を興してから、「三度目のショックの真っ只中にいる」と言う。オイルショック、バブル経済の崩壊、そして現在のリーマンショックに端を発する世界同時不況。過去二度のショックに、会社組織の大変革で凌いできた氏が、政府がデフレを宣言するような、モノの値段が急降下する事態、時代下で、どのような変革を志向しようとしているのか、私を含め二十人の参加者が聞きたかったのは、そこだった。

 氏は、日本家具工業連合会の会長を務めていた〇六年、「家具修理職人ドッド・コム」というシステムを立ち上げている。全国に散らばる大小の家具メーカー、工房に呼びかけ、家具の修理を手軽に、安価にすることで、高い技術力で作った国産家具を長く、百年の単位で使ってもらおうという主旨だ。限り有る木材資源を有効に、大切にしたいという作り手としての思いも込められているし、もちろん、だから安価な、いわば使い捨て感のある外国製ではなく、二世代、三世代にわたって使い続けられる国産家具をアピールしたいという意味もある。

 表現は多少違うかもしれないが、氏が語った大意は次のようなものだと私は受け止めた。

 ――「大量に作って、大量に売る」という時代は終わった。近頃の世界規模で起きている大災害を見れば、誰もが温暖化によって地球が壊れ始めていることを実感しているはずだ。だが、それでも、日本経団連は、たくさん作ったモノを外国に輸出して大量に売るという、二十世紀型の「経済発展」を唱え続ける。経済を発展させる、ではなく、実態を大きく変える経済にならなければ、地球そのものがもたなくなっている。十年後か、二十年後か、とにかくそれくらいの速さで、化石燃料を使って走る自動車は間違いなく製造禁止になるだろう。つまり、二酸化炭素を減らす経済に変えなければ、変わらなければ、私たちは生きられない時代が目の前に来ているということだ。そんな時代に企業は、どんな変革を目指すのか――

 「家具修理職人ドッド・コム」は、自分の会社や工房で製作した家具でなくても、インターネットで検索した職人リストから最寄のメーカーを選択して相談し、必要であればデジカメの映像を送って確認、見積もりしてもらい、指定工場で修理するというシステム。これまでは輸送コストや梱包の手間、納期の問題など、使い手にとっては負担が大きく、「直すより、買ったほうが安いのでは」という心理を呼び起こす可能性もあった。

 自社の製品を売って儲ける、という企業としての当たり前の思考から踏み出して、旭川の、もっと言えば、日本の家具産業の視点から、必要な分だけ作って売る、持続可能な産業にしなければならない、という確固たる意志の表れの一つが、このシステムだろう。囲い込むのではなく、開放し協働することで勝つ。私は、かつてのビデオのβとVHSのシェア争いの結末を連想したりした。氏は「当社の場合、その修理の売上が年間一億円ほどになっている」と明かした。さらに、使われなくなった家具を下取りして販売する、二次マーケットを構築する新ビジネスに取り組む準備を進めているのだと言う。

 氏は、進化論・ダーウィンの「適者生存」という言葉も使われた。時代や環境の変化に適応できるものが生き残ることができる、という意味だ。「強い」とか「優れている」よりも、「いかに柔軟に適応できるか」が生き残るカギだということだろう。

 さて、インターネットが急速に普及し、世界中の情報が瞬時にして伝わる時代。紙の原料となる木材の供給は、地球の温暖化阻止の流れの中で間違いなく先細りだ。情報が紙という媒体によって運ばれる必要性はない、と判断される時期がそう遠くない将来来るのではないか…。小さな新聞社の「適者生存」の方策を探すためには、どちらを向けばいい――。

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