しつこいと言われようとも、今週も、農業法人・西神楽夢民村のスタッフ一行と巡った、九州の研修旅行にまつわる話を。

 三泊四日の旅の昼食は、いずれも「農家レストラン」でとった。二日目が、熊本県菊池市の「コッコファーム」。十万羽のニワトリを飼育し、朝どりの卵、三キロ入りを毎日平均千箱ほど売る。十個で百円などという、人寄せ特売価格ではない。一個四十円近い値段の高級卵を、である。地元の百五十戸ほどの生産者が持ち込む野菜や加工食品も並ぶ直売所には年間四十七万人が来店し、売上は五億七千万円。直営レストランは、オムライスと親子丼の専門店だった。オムライス千円、親子丼セットは九百円。なかなかのお値段。お味も、なかなか。

 三日目は、梅と柚子で知られる、大分県日田市大山町の農業者バザール「木の花ガルデン」での昼食。「オーガニック農園」という名のレストランはバイキング形式で、中学生以上が千三百六十五円というお値段。料理は、きんぴらごぼう、鶏と野菜の煮付け、ホウレンソウのおひたし、玉子焼き、キュウリの酢の物、かき揚げ、漬物、サラダ、キノコカレー…。肉や魚が貴重品だった私の子どもの頃に、母親が作った家庭料理のメニューが常時七、八十種類並ぶ。

 売りは「その時々に、地元で採れる農産物や山菜を使って、地元の農家のオッカサンたちが手ずから作る家庭料理」。つまり、ある年代以上にとっては、なんて言うことはない、普通のお惣菜。みだりに濃くない、尖っていない、押し付けがましくない、そんな味。その直売所、レストラン、喫茶店、山野草園からなる施設は、街からかなり遠い、深い谷に挟まれた、川沿いの、いわば辺鄙な場所にある。決して良いとは言えない立地条件であるにもかかわらず、レストランは「週末は、団体客の予約お断り」。県外からもわんさか客が押し寄せるのだそうな。欠食児童の過去を持つ私などは、千三百六十五円の元を取るのは難しいかな、などとつい計算してしまうのだが。

 そして最終日は、長崎県大村市の農業法人・おおむら夢ファーム シュシュの「ぶどう畑のれすとらん」での昼食。直売所、洋菓子工房、アイス工房、パン工房もある施設内のブドウのガラスハウスを利用した建物で、時期になるとブドウの実が頭の上にぶら下がるのだそうだ。ここもバイキング形式。大人千二百六十円。料理のコンセプトは、大山町の「オーガニック農園」とほぼ同じく、「地産地消」をモットーにした、まごうことなき家庭料理である。そして同じように、地の利は決して良いとは言えない施設に、地元長崎ばかりでなく、福岡、熊本など県外からも客がやって来る。

 考えてしまった。もちろん、あちら九州では、この時期でも露地でキャベツや大根が栽培できて、ビニールハウスの中ではピーマンやらキュウリやらが収穫できる。一方、こちとら北海道は、ほぼ半年間、雪の中。そのハンディを考慮しても、直売所や農家レストランが、年に三億円も五億円もの売り上げを実現できる素地が、果たして我が旭川にあるや否や、と。今回の旅行は、農業に関する研修という目的が徹底していたから、街をフラフラという時間は全くなかったのだが、五県を走り回ったバスの窓から観察した限りでは、九州はファストフードの店が少ないのではないか、との印象を持った。ハンバーガーやドーナッツや唐揚げのチェーン店の看板は、あるにはあったが、目にした頻度が、北海道に比べてかなり低いような…。

 試しに、インターネットの都道府県別統計ランキングを覗いてみると、ハンバーガーの「M」の店舗数は、熊本県四十一、大分県二十五、長崎県二十四、佐賀県十七、宮崎県十八。そして北海道は百九。唐揚げチェーン「K」の店舗数の割合も、それに似たり寄ったりというデータ。人口やその密度という条件こそあれ、巡った五県の店舗数は絶対的に少ない。

 前週の東直己氏の言ではないけれど、北海道人は進取の精神に富み、開放的で、おおらかで、外からやって来る人も、物も、食べ物も、慣習にとらわれることなく、受け入れる。本州で食い詰めた者どもが、山師気分で一旗上げようと、しょっぱい川を渡ってやって来た。その末裔たちは、伝統も文化も地産地消もあるものか、安くて、速くて、手軽なものなら何でも食っちゃえー。目の前にある物を、躊躇せずに食わなければ、いつまた食い詰めるか分からんべさー、というDNAが騒ぐからなのか。口にするものに対して、アメリカ合衆国的鷹揚さがあるのではないか、と思ったりして。

 先述のコッコファームを視察した折、経営者が「年末には、三キロ入りの卵の箱を三つも五つも買いに来るお客の列ができて、販売制限をするほどです」と言う。内心、「熊本県民は、もしかすると、異常に卵好き、しかも、その品質に極度のこだわりを持つ県民性を備えているんじゃないのかな」と勘ぐりたくなった。すぐに、いやいや私たち北海道人が、こだわりがなさ過ぎるのだな、と気付いたのだが、事ほど左様に、旭川を含む北海道の農業には、可能性がある、ということですよね――。

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