土佐・高知の友人からトマトが届いた。来旭した折、「高知のトマトは日本一ですよ」「北海道のトマトは水っぽくて」「高知のスーパーや八百屋では、徳谷トマトしか売っていないよ」「高知は貧乏な県だけど、みんな一個二百円も三百円もするトマトを買って食べてるのよ」などと自慢して帰った。で、その高知のトマト、「徳谷トマト」が送られて来たというわけ。大きさは、桃太郎とミニトマトの中間、いわゆるミディアムサイズ、中玉。そのお味は、確かに濃厚、とてつもなく甘い。お値段は、高級品になると、一個四百円以上もするらしい。家人は、「おいしいけど…、私は、西神楽の友達の農家のトマトの方が好きだと思う」と言う。

 ただ、五年ほど前、高知に行ったときに居酒屋でも、食堂でも、置いている酒は地元高知の蔵の銘柄だけだったことと思い合わせると、その郷土愛、「地産地消」なんて掛け声をまるで必要としない徹底した「土佐のものが一番うまいに決まってる」的意識に、敬服せざるを得ない。皮が妙に硬い徳谷トマトを味わいながら、北海道人の郷土に対する思い入れの薄さを思ったりした。枕はここまで。

 「読者ですが…」と丁寧に名乗って電話があった。「二年前、市役所職員の昼休みの時間が市議会でも取り上げられ、議論になった時から気になっていたんですが、何だか重箱の隅をつつくような話じゃないのかと気がひけて、中々連絡できませんでした。こう言うと誤解されるかも知れませんが、私、最近になって禁煙しましてね。それで意を決して電話してみたんですが」と言う。ん、ん、「市職員の昼休み」と「禁煙」と…、いささか風が吹けば桶屋が儲かるみたいな話ではないかと訝りつつ、電話の声に耳を傾けた。

 ――市役所の昼休みが十五分短縮されて四十五分間になったことで、役所の周辺の食堂やら喫茶店の売上にかなりの影響が出ているという話でしたよね。私、仕事の関係で市役所に結構行くんですが、庁内にある喫煙室には勤務時間中に職員がしょっちゅう出入りしています。タバコを吸っていた頃は、私もたまに利用させてもらいましたが、喫煙室が無人だったことはほとんどありません。必ず、市職員が二人か三人、多い時は四、五人いて狭い部屋は煙でモクモク。窓ガラスはヤニで黄色く汚れています。

 ――あれって、勤務時間中の、いわばサボリですよね。いや、仕事をしていて一服したい気分になるのは分かります。私もそうでしたから。そんな些細なことをあーだこーだ言い立てるのはどうかとも思うんですよ、本当に。成果主義だ、生産効率だ、コスト意識だ、競争だと、世の中やけにせせこましくなって、仕事をしていても何かに追われているような気分になるじゃないですか、近ごろは。私の若い時分、もう三十年以上も昔の話ですが、明らかに違いました。仕事を楽しむとは言わないが、気持ちに余裕がありました。右肩上がりの時代だったからだろうと言われればそれまででしょうが、それだけではなくて職場も、世の中も、良い意味での「いい加減さ」、車のハンドルの「遊び」みたいなものがあって、今のようにピリピリしていなかった。それって仕事だけじゃなくて、人と人が関わるとき、もっと言えば人間が生きる上で、とても大事なことなんだよね。

 ――二年前、思ったんですよ。市役所の昼休みを十五分短縮したら、周辺で商売している人たちが大変な影響を受けるのははっきりしている。街の中に、昔ながらの食堂や喫茶店やラーメン屋があり続けるって、とてもいいと思うんです。そうした小さな商売が成り立つというのは、ある意味でまち全体の底力ですよ。それが、たった十五分の昼休み時間短縮で、店を閉めなければならない状況を生むとしたら…。全員ではないにしても、タバコを吸うために職場を離れることを許す度量があるのならば、たった十五分、なんとかならないのかって。一回五分、一日に三回喫煙室に行ったら十五分じゃない。いや、だからって、勤務中にタバコを吸いにちょっと持ち場を離れるのを禁止しろ、なんて言うつもりはないんですよ。むしろその逆で、昼休みをどうにかして一時間にする方法を考えたらどうか、という意味なんです。分かってもらえるでしょうかね、編集長。

 市総務部人事課に取材した。総合庁舎には六階のフロアに一カ所、庁舎が開いている時にはいつでも出入りできる喫煙室がある。二階の喫煙室は、勤務時間中はカギがかけられ、就業前・後だけ使用可能。第二庁舎には時間制限なしの喫煙室が三階にある。第三庁舎には同じく二カ所の喫煙室。市立病院や教育委員会所管の施設のほとんどは敷地内禁煙。公民館などは、施設ごとに違うという。

 〇九年(平成二十一年)に同課が行なった調査では、約三千人の市職員の二九・五パーセントが喫煙者。ほぼ三人に一人の割合だ。最近、厚生労働省が全国の自治体に対して、公的施設では全面禁煙が望ましいとの通知が出したことから、旭川市は四月から「喫煙」について全庁的な検討会を立ち上げる準備を始めるという。またまた国の指示を受けてですか…。世の潮流からいって、きっと施設内全面禁煙に向かうのだろうけれど、そうなったら愛煙家の職員が敷地外まで出かけて行って、これまでよりも「ちょっと一服」の時間が長くなる可能性はあらずや。

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