自宅で昼ごはんを食べて、庭の畑を見回り、会社に戻る前にちょっと休もうと横になって新聞を広げていると、にわかに金属的な轟音が空から降ってきた。鼓膜を震わせた尖った音は、あっという間に遠ざかる。耳にした経験はないが、急降下爆撃機でも来襲したかと思わせる爆音だった。

 飼っている犬が、窓から遠いトイレの前で耳を伏せて震えている。家人が、「堤防に見物の人がたくさんいるけど、これがあのブルーインパルスなの?」と窓から空を見上げている。六機のジェット機が白煙を引きながら円を描いたり、交差したりを繰り返している。どこかへ消えた機体が戻って来て演技する度に爆音が降ってきて、犬はますます身を縮め、震えながら私に助けを求める。

 社に戻って聞くと、翌日予定されている自衛隊のイベントに登場するブルーインパルスが予行演習をしていたのだろう、という。アクロバット飛行するために身軽にしているはずの練習機でさえあの轟音、爆音なのだから、重い爆弾や装備を抱えて飛ぶ戦闘機や爆撃機のエンジン音はいかばかりか。あの異常な騒音を四六時中、朝も夜も聞かされる、沖縄の人たちの境遇、災難、理不尽を思う。

 陸上自衛隊の駐屯地があるとはいえ、私たち旭川地域の住民は、祭の行列に駆り出される戦争色のジープやトラック、そして冬まつりの大雪像づくりに精を出す隊員の姿しか知らない。交通量が増える通勤時間帯に幹線道を行く自衛隊の車両の列に「サラリーマンみたいに九時―五時で動くなよな、お前たち軍人だろうが」などと舌打ちするのが関の山だ。辺野古だ、普天間だ、嘉手納だと新聞やテレビ・ラジオで騒いでも、それは他人事。実感として、「沖縄の不幸」は対岸の火事どころか、他国の問題ぐらいの受け止め方なのだ。かく言う私も。

 普天間基地には、攻撃ヘリコプターや空中給油・輸送機など七十一機が常駐している。密集する住宅地の上空を低空飛行するヘリコプターやジェット機。電話の声も聞こえないほどの騒音だという。土日祝日、昼も夜もおかまいなしに。

 「抑止力」という、実態を見せてくれない軍事上の理論で沖縄に米軍を駐留させ続けることが、牛が乳を出さなくなったり、鶏が卵を産まなくなったり、住民が難聴になったり、体調を崩したり、ジュゴンの棲む海を失ったりする対価として、代償として、正当なのか。私たちは、もっともっと想像力を働かせ、沖縄の現実を考えなければならない。初夏の青空に白い煙を引き、鼓膜の奥に金属音の余韻を残して飛び去ったブルーインパルスの機影を追いつつ、すごく暗い気持ちになった。枕はここまで。

 市役所を定年退職した職員の「再任用制度」を取り上げた前週の小欄、「市役所OBの雇用対策は万全なのですね、西川市長様――」について読者から手紙をいただいた。民間企業を六年前に定年退職し、昨年まで同じ企業で働いていたという男性。その抜粋を――。

 小生たちが就職した時代は、高校を卒業して地元の役場に勤める人は少なかったし、そもそも望まなかったと思います。右肩上がりの時代でしたから、民間の会社の方が初任給も高かったし、将来性もあるというのが一般的な風潮でした(中略)。

 今週の「直言」を読んで、いつからこのように公務員の方が待遇が良くなったのか、と考えました。そして、いつからということではないと思い当たりました。つまり、民間の会社は、巨大企業は別でしょうが、小生が四十年以上勤務した地元の中小企業(零細企業?)では、景気が良くて会社が利益を出した年はボーナスや手当という形で収入が増えることはありましたが、景気が悪いと、本給こそ減らされることはありませんでしたが、それこそボーナスどころか暖房手当てまで減額されることもありました。もちろん、そんな状況ではベースアップもなしです。

 公務員は、最近こそ三%とか五%とか、給料がカットされるようになりましたが、戦後、一貫して給料は上昇し続けたわけです。景気の良し悪しで公務員の給料が上下することはなかったわけです。それで、気が付けば旭川で最も高給取りの集団が市役所になっていた、というわけです(中略)。

 民間を就職先に選んだお前の判断が間違っていたのだ、と言われてしまえばそれまでです。分かっています。ただ、市役所に職を得て、定年退職までの三十八年から四十年以上、多分道北圏内で最も高い給料を保証され、手厚い福利厚生を受けて、聞くところによれば二千八百万円から三千万円もの退職金を支給されて晴れて定年を迎えたOBに対して、これまた優遇されている年金がおりるまで面倒を見る必要があるのかどうか(中略)。

 直言によると、菅原市長の時代に公務員優遇の批判を受けて一度は凍結された再任用の制度が、どうしていつの間にか復活したのか。議会では問題にされなかったのか。不思議でなりません。小生も昨年から年金をいただいています。有難いことだと思っていますし、他人の懐具合をうらやむのは性に合いませんが、職を求める人に対して、特に若い人に対して、このような再任用制度がどのように映るか。為政者にはそれを肝に銘じてほしいと、強く思います――。

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