日曜日、朝食を終えて新聞を読んでいた家人がつぶやく。「このお金、私たちの税金じゃない。自己責任って、こういうときに使う言葉じゃないの」。山岳遭難で、警察など公的機関のヘリコプターが遭難者を救助したという記事を読んでいたらしい。

 一時、山で遭難してヘリが出動したら、命は助かっても破産する、と言われた。民間のヘリなら一分十万円、ヘリが一時間飛んだら六百万円、二時間なら千二百万円にもなるという。破産すると言われるのも、あながち大げさではない。「好きで遊びに行って、自分の能力以上の山に登ったりしてね、動けなくなったからとヘリを頼んで、その費用は私たちの税金が負担するって、おかしくない?」「そんな危険な場所に行くなら、覚悟して行けばいいのよ。万一遭難しても、他人の助けはいらない、死んでも文句は言いませんくらいの覚悟を」。「この前、助けに行ったヘリが落っこちて、乗っていた人たちが死んだじゃない。あの人たちの命の責任、誰が取るの? ねぇ、おかしいと思わない?」。大雪山系でも遭難事故が続く今日この頃、アウトドア嫌いの家人の憤懣はなかなか治まらない。

 もう一つ、どうなのさ、という話を。買物公園にテントを張って、野菜やら焼き鳥やら、ビールやらを売って楽しんでもらう祭りをやった。主催する実行委員会のスタッフの一人に名を連ね、準備やら何やら、お手伝いの真似事をさせていただいたのだが、思うところがいろいろあった。

 保健所に相談に行った折、一緒に行った、こうした催事に慣れている友人は「今日の担当者は、話が分かる人だったなぁ」と言う。確かに、親切に教えてくれたし、上から目線でも、横柄な態度でもなかった。ただ、例えば、カレーライスは出してもいいが、そのご飯は六十度以上でなければダメだという。ムムム、電気のジャーに入れてあっても、六十度には保てない。炊きたてを使い続けるなんて、到底できない。結局、屋台でカレーライスは無理なのか…。その担当者が苦笑いしつつ教えてくれた。こうした祭りやイベントで、日本中の保健所がカレーライスにむやみやたらと敏感になったのは、和歌山毒カレー事件以降だという。ハハハ、あの手の猟奇的な事件が、再び起こる可能性はどれほどのものかね。

 例えばの二つ目。サンドイッチは、その場で調理してはいけない。レタスと卵をパンに挟むだけのことなのに、それはダメ。どこか、ちゃんとした調理場で作って、包装をして、製造者やら原材料やらを明記したラベルを張って売るなら許される。熱を通さない野菜はダメということらしい。でも、でも、ちゃんとした調理場で作ったかどうか、誰にも分からないのね。ラベルが正しいかどうかだって、チェックのしようがないわけ。それに、こうした指導をする保健所の職員が、自分たちが行った指導が、正しく守られているか調査をするために現場に来る、なんてことはないという。

 つまりは、こうした祭りで、もし食中毒などの事故が起きた場合、「私たちは、ちゃんと指導しました」と胸を張って言うための決まり事なのよ。祭りで食べたもので腹痛おこしたって、それは自己責任だと思うんだけど。山の遭難と同じで、買って食べる側も、ある程度の覚悟を持って食べるべきじゃない。知らない人が調理したものなんだから、何かあっても、それは私の責任よ、くらいの覚悟をさ。もちろん、提供する側は細心の注意を払うってのは当然のことよ。

 日本って、いつからこんなに誰かに責任を押し付ける、アホみたいな無菌を信奉する、おかしな社会になっちゃったのかな。日本人が、ヒトという動物の生命力として、中国や韓国や東南アジアの国々の人たちに負けるのは当たり前だと思いますけど、いかがか。長い枕でごめんなさい。

 もうかなり以前になるが、小欄で「高速道路をつくるよりも、既存の国道や道道を拡幅し、車線を増やすべきだ」と書いたことがある。商店街などへの影響や除雪などのランニングコストだけを考えても、高速道路はムダ以外の何物でもないと。政権交代で、六月から旭川を走る道央自動車道は、北は剣淵・士別まで、南は岩見沢までの区間が無料になった。予測どおり、様々なマイナスの影響が出ていると報じられている。

 高速と並行する国道沿いの「道の駅」も、その大半は売り上げ減だという。国の補助金でつくられる道の駅の多くは、その維持管理は地元の自治体・第三セクター。立派なトイレの清掃やら管理やらにかかる経費は、売店の利益に頼っている。二十一日付の北海道新聞の記事によれば、ある町の町長が「産業が空洞化し、地域の経済疲弊に拍車がかかる」と無料化の中止を訴えているそうだが、産業の空洞化も経済の疲弊も、町や商工会あげて高速道路建設を望んだ、一つの結果ではないのか。その要因は、無料化ではなく、高速道路そのものにあると言っていい。国のお役人にあおられて、口車に乗せられて、高速道路建設期成会みたいな組織を作らされて踊らされたのは誰なのさ、と売り上げ激減に困っている飲食店や事業所は、もっと、ちゃんと、怒ったらいい――。

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